
【新・相場道五十三次 第21回】そもそもテクニカル分析は何だろう?
前回までは企業分析やマクロ経済分析に関する基礎知識をお話してきました。そこで目を転じて、テクニカル分析を考えます。今回はまず、私自身の体験から、この分析方法の考え方を述べてみます。
この記事のもくじ
テクニカル分析に不遇の時代
戦後の証券市場の復興期には、テクニカル手法は怪しい存在とみられていたようです。というのも、証券業界の大先輩から聞いた話では、東京証券取引所がある日本橋兜町の橋のたもとに「罫線屋」という商売の人がいて、通りがかる人を呼び止めていたのだそうです。罫線屋は、立ち寄った人に、罫線でみて値上がりすると判断した銘柄を教え、お金をいただくのです。ということで、投資家から見ても、罫線(チャート)は怪しい印象があったようです。
時が移って1980年代になっても、その状況は大きく変わりませんでした。そのころでも、日本ではテクニカル分析はマイナーな存在でした。それどころか、テクニカル分析は、証券ビジネスのなかでは禁句でさえありました。例えば大手金融機関のファンドマネージャーにテクニカル分析の話をすると、「申し訳ないですが、テクニカル分析で(ファンドを)運用できるわけがないじゃないですか」とか、「テクニカル分析で売り買いするということは委託者に説明できない」などと言われて、追い返される始末でした。テクニカル分析のイメージは、星占いや手相などに近いものだったのです。
投資が科学になる裏で
その背景には、「現代ポートフォリオ理論」があります。のちにノーベル賞を受賞したマーコビッツ氏が提唱したこの理論により、資金運用は科学になる一方、同受賞者のファーマ氏による「効率的市場仮説」により、チャート分析は無意味なものとみなされはじめていました。さらに、1973年に、経済学者のブラック氏とショールズ氏が、オプション方程式(ブラック・ショールズ方程式)を導き出したことで、投資は金融工学として理論的な分析の対象となったのです。
資金運用(投資)は、科学や工学に裏付けられたことで、客観化します。客観化は、20世紀の世界の経済発展を推進した最大の功労者です。個人の職人技であり、師匠から弟子に受け継がれていた技術が、客観化することで、誰もがその業務を行うことが可能となりました。その結果、大量生産が可能になったのです。言い換えれば、科学の裏付けによる客観化が、世界的な工業化の原動力になりました。
同様に、投資も理論づけられて、客観化されます。その結果、個人のスキルに頼ることなく、会社という組織がそれをビジネスとして扱うことができるようになります。実際に、1980年代から、世界中で金融ビジネスが急拡大し、先進国の主要なビジネスにのし上がっていきました。
そうなると、チャートがゴールデンクロスしたから買うとか、グランビルの法則によれば売りだ、といった話が疎まれるのは仕方ないこと。理論で証明できないような非科学的な方法は、ビジネスには使えないということになってしまいました。
特に、その当時の日本は、経済大国として世界のなかでの存在感が高まり、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時代です。経常黒字が積み上がり、さらにバブルでもあり、マネーが膨張。この巨額の資金の運用には、科学的な最先端の技術を導入しようとする機運が高まっていました。金融機関は、米国の大学院や投資銀行に若手社員を派遣し、そのような知識を吸収しようとしていました。
テクニカル分析のプロ
わたしも、そのような状況の中にいました。しかし、テクニカル分析について、違った見方をする機会に出会いました。
1987年に米国に行くと、証券会社で、テクニカルアナリストというタイトルの人に出会いました。その方は、業界でも超有名人とのこと。驚いたことに、執務室に入ると、四方向の壁のすべてに、大きなチャート(株や商品のグラフ)が張ってあったのです(それは、ポイント・アンド・フィギュア「P&F」のグラフでした)。このような光景は、日本の証券会社でも、運用会社でも見たことはありませんでした。
洗練された米国の証券会社に、テクニカルアナリストという仕事があり、その人がチャートを手で描いて、さらにそれを使って機関投資家の運用をアドバイスしていることに対して、私はショックを受けました。
その後、私は帰国して、株式先物の証券会社の自己売買(ディーリング)に従事したのですが、テクニカル分析を重視した取引をはじめました。米国での経験がそうさせたのです。もちろんはじめは、ポイント・アンド・フィギュアでした。
私の経験では、このポイント・アンド・フィギュアは、トレンドが出やすいマーケット環境ならば、かなり有効でした。1980年代後半から1990年代前半は、バブルの発生から崩壊に至る過程でしたが、まさに大きなトレンドが出やすい時代。このテクニカル手法は、実際に利益を生み出しました。
テクニカル分析が続いていた市場
一方、そのころでも、テクニカル分析が根強く存在している市場がありました。それは、外国為替市場です。証券市場に比較して体系だった理論が建てられていない外為市場では、個人の能力や職人的な技術が重要視されていたからです。
外為市場では、もみあい相場やトレンド相場を探る手法(マーケット・プロファイル)が人気でした。先物市場のフロアトレーダー(取引所で売買を執行しているプロ、場立ち)が、メモ代わりにつけていたチャートが発祥と聞きました。わたしは、少し研究はしましたが、実践ではあまり使わなかったと記憶しています。
そして、次に脚光を浴びたのが一目均衡表です。これも、外国為替市場でした。実は、このテクニカル手法の価値を見いだしたのは、外国のトレーダーだったそうです。
先行スパン、基準線、転換線、遅行線など怪しい(?)線が入り乱れたチャートは、漢字の「一目」という言葉とも相まって、日本人にとっては、昔の「罫線」の亡霊に見えたことでしょう。しかし、そのようなしがらみのない外国人の目には、このユニークな(他に類を見ない)チャートは、新鮮に映ったようです。もちろん、実際にこれが取引で有効だということこそが、外国のトレーダーに評価された最大の要因でしょう。
テクニカル分析の復権
その後は、テクニカル分析が復権してきます。それには、次のような背景がありました。
- 1.市場の効率性に対する疑問の広がり。
- 2.PC、インターネットなど情報技術の革新により、チャートが容易に見られるようになったこと。
- 3.システム運用の発達。
まず、1.のように考えられるようになった一つの要因は、効率的市場仮説に疑問を抱かせるような、市場平均を上回る成績をあげ続けたトレーダーが少なからずいたことです。これは、テクニカル分析の見直しにつながりました。
また、2.については、誰でも、簡単にチャートが作れるようになったということを意味しています。それ以前は、チャートを描くのは大変な作業でした。そもそも過去の株価データを集めることも難しく、仮にそれが得られても、自分で作るということになれば、膨大な時間がかかりました。しかし、ネット環境が飛躍的に発展することで、1分足チャートさえも簡単に見ることができるようになりました。これは、必然的に、チャートへの関心を高めます。
そして3.については当初テクニカル的な売買のサインを使うものが主流であったことから、テクニカル分析の研究が進みました。
テクニカルは実践が大事
ただ、いくつかの問題も指摘できます。
- 1.テクニカル分析の大衆化・画一化は、テクニカル分析の精度を低下させないか。
- 2.不十分な知識でテクニカル分析を利用することは、損失につながりやすいのではないか。
1.については、業者が提供するチャートを誰もが見れば、売買のタイミングが同じになるために、他人に先んじて売買することで利益を確保できず、テクニカル分析がうまく機能しないということになります。
また、2.については、チャートの安易な利用で、損をしてしまう懸念があるということです。かつては、チャートは手で書いていましたが、その過程でチャートの意味や解釈の仕方を考えることができました。しかし、そのようなプロセスを抜きに出来合いのチャートを見れば、深い考察のないままに取引することが懸念されます。簡単にチャートが手に入る時代だからこそ、あえて時間をかけてその内容を勉強することが大事でしょう。
もちろん、このような環境の良い面もたくさんあります。例えば、さまざまな証券や商品の値動きをすぐにチャートに起こせることは、たくさんのチャートを見ることにつながり、投資家にとって大きなアドバンテージです。
私見では、テクニカル分析は、理論的な研究をある程度した後は、実践をともなった繰り返しが大事です。チャートは、たくさん見て、たくさん感じて、たくさん実践(あるいはシミュレーション)をしてみること、すなわち技術として使いこなすことが大切です。
相場の徒然:役立たないがわかることも役に立つこと
先物ディーラーとして駆け出しのころ、仲間とテクニカル分析の勉強会をしていたことがあります。月に一度、土曜午後に、区民会館などリーズナブルな部屋に集まって、缶コーヒーを飲みながら話をします。メンバーは6~7人でしたが、それぞれが自分の得意とするチャートや、気になるチャートを持ち寄って、みんなでそれを批評し合うのです。
そこでは、一目均衡表の話もありましたし、P&Fの話もありました。プロのファンドマネージャーの中には、インターネットがそれほど普及していない時代に、すでにシステム運用をはじめている人もいました。その中で一番盛り上がったテーマは、占星術(アストトロジー)を使った相場分析です。木星の位置がここにあるから株価は上がるとか、火星が逆行するから相場は不安定になるとか、真剣に議論をしていました。
基本的には、テクニカル分析が好きな人は、ロマンティストが多いという面もあります。理論を超えたところに真理があるのではないかと空想するのは楽しみでもあります。ただ、それ以上に、相場で勝ちたいという気持ちが強く、使える手法を徹底的に調べていくなかで、あらゆるものにチャレンジしました。アストトロジーだって、勉強してみました。
そんな努力をしても、すぐに良い結果が出るわけではありません。それでも、あとあとになって、それが別の場面で役立つことは少なくありません。ということで、投資についても、熱意もって努力すれば、どこかでそれが生きてきます。
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