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【新・相場道五十三次 第7回】ROEの意味と使い方、注意点を解説

【新・相場道五十三次 第7回】ROEの意味と使い方、注意点を解説

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廣重勝彦
廣重勝彦

株主資本利益率(ROE)はアベノミクスがはじまって特に注目されている指標で、長期的には株価との連動性が高いとの見方があります。今回はROEについて考えてみましょう。

株主資本利益率(ROE)とは?

ROEは"Return on Equity"の略語で、「株主資本利益率」と言われます。ROEは次の式で算出します。

ROE(%) = 当期純利益 / 株主資本

株主資本は自己資本とも言われます。会社は事業に必要な資金を、株主の出資や銀行からの借り入れ、債券の発行などで調達します。その中でも株主が出資した資本が「株主資本」です。借り入れや債券の発行で調達した資金は、いずれ他人(銀行や債券保有者)に返さなければならないお金ですから「他人資本」と呼ばれます。

株主資本は、株主が出資した資本金と法定準備金、またその後の経営活動によって生み出された剰余金等の合計です。いわば株主の持ち分ですが、これを会社がどれだけ効率的に利用して利益を上げたかを示す指標がROEです。

例えばROEが5%であれば、株主の持ち分から見ると会社は1年間で5%の利益をあげたことになります。当期純利益は、従業員への給与や債権者への利払い、納税を済ませた後に残る利益ですから、株主に帰属する儲けです。ということでROEが5%の会社は、株主の持ち分を5%増やしたことになります。

ROEが1%の会社は1年かけて株主の持ち分を1%しか増やせていないのに、ROEが20%なら株主の持ち分を20%も増やしてくれたことになります。株主から見ればROEが1%の会社よりも5%の会社の方が良い会社であり、ROEが20%の会社は株主にとってはうんと良い会社、ということになります。

経営指標としてのROE

ROEは投資家が昔から使っている投資尺度の一つです。それがいま見直されているのは、経営指標と位置付けられてきたからです。その背景には日本の経済や社会が抱える重要な課題があります。一つは少子高齢化であり、もう一つは経済成長率の低迷です。

日本の人口は明治時代以降ではじめて減少に転じています。そのため、このままでは近い将来において年金が減額され、あるいは年金受給年齢が引き上げられることもあり得ます。

この課題を解決するためには、少子化対策だけでなく、年金の運用利回りを改善することが重要です。そして、運用利回りを上げるためには、投資した会社が一定水準の利益をあげ続けることが必要です。その水準を示す指標がROEなのです。

ROEは成長戦略のカギ

日本の経済成長率は、長期的にみて極めて低い水準にとどまります。これは潜在成長率の議論ですが、0%に近づいているのが現状です。成長率がここまで低下している要因の一つは、資金が経済成長に必要な場所(会社)に届いていないためです。

日本の個人金融資産は1,752兆円にのぼりますが、そのうちほぼ半分にあたる916兆円は預貯金であり、株式での運用額は1割程度の150兆円にとどまります。このように、人々は株式投資を避けて安全資産の預貯金にお金を振り向けています。もし、家計(個人)がもう少し投資に前向きになっていれば、長期の安定した資金が会社に行き届くことで新しい技術の開発が進み、新しい産業が生まれることで日本経済の成長が一段と促進されていたはずです。しかし、現実には家計はリスクをとらず、株式投資には慎重でした。

家計が預貯金に固執する理由はいくつかありますが、少なくとも株式投資が魅力的ではなかったことは否めません。株式は預貯金と異なり、値下がりによる元本毀損のリスクがあり、そのリスクに見合うだけの利益(リターン)が得られなかったために、株式投資に慎重になる人が多かったという見方ができます。

これを解消するカギがROEです。投資家がリスクに見合うだけのリターンを得るためには、そもそも会社が投資家に報いるだけの利益を出さなければなりません。

「伊藤リポート」によるROE目標の設定

国も投資の停滞に対して警戒感を強めていましたが、ROEを一つの突破口として着目した上で、一つのめどを示しました。経済産業省は2014年8月、一橋大学の伊藤教授が座長を務めるプロジェクトのリポート(伊藤リポート)で、「グローバルな投資家との対話では、8%を上回るROEを最低ラインとし、より高い水準を目指すべき」と指摘しました。これはアベノミクスの第3の矢である「長期成長戦略」の一環ととらえられ、「8%のROE」は企業経営者の目標というイメージができています。

伊藤リポートが発表される前の10年間で比較すると、日本企業の平均ROEは6.8%と米国の13.6%、ドイツの10.9%よりも相当低く、先進国平均の12.4%と比べても低水準でした。日本企業のROEの低さを見ると、日本株に投資しても報われなかったとの見方が出るのはいたし方ありません。そこで同リポートは、8%のROEがないと株式投資をする意味がなくなると指摘し、経営者に対してこれを経営の一つの目標とすることを求めています。

なお、投資家が最低限投資に見合うとみるROEの水準(伊藤リポートでは8%)は、「資本コスト」とも言われます。経営者はROEを8%以上に高める暗黙の責務が生じてきます。8%を下回れば、経営者は株主総会で更迭されるかもしれませんから、緊張感をもって利益の追及を行うことになります。

政策を強化する二つのコード

さらに政府は、この政策を強化するため、上場企業に対しては「コーポレートガバナンス・コード」という社内方針を策定し、そのなかで実質的に経営指標としてROEを重視することを求め、機関投資家に対しては「スチュワードシップ・コード」という責務を求めました。機関投資家は、多くの人々のお金を預かって運用しています。そのため、機関投資家は適切な利益をあげるよう、最大限の努力をしなければなりません。

したがって、機関投資家は自分が投資した会社のROEが低くなれば、その会社にROEの是正を要求する必要があります。例えば、ROEが低い会社の経営者に対しては、取締役の再任を拒否することが求められます。かつては、このような厳しい姿勢は、日本的な慣行の中で避けられてきました。しかし、スチュワードシップ・コードはそれを許さない仕組みです。

このようなコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードは海外投資家からも評価されています。日本企業の収益力が高まるとともに、日本市場の独特のカルチャーが弱まることで、株価形成の透明性が高まると期待されているからです。アベノミクスで株価が大きく上昇した際、外国人投資家は日本株を大幅に買い越しましたが、その背景には、日本市場のガバナンスの改善があるといわれています。

ROEを上げる方法

このようにみると、ROEは会社(経営者)の株主に対する姿勢を示していると言えます。ROEが高いということは、それだけ株主に対して利益を還元しようとする気持ちが強いという解釈ができます。

では、ROEを高くするためにはどうすればよいでしょうか?その答えはROEの式にあります。

ROE(%) = 当期純利益 / 株主資本

一つは分子の当期純利益を大きくする方法であり、もう一つは分母の株主資本を小さくする方法です。このうち、分子の利益を大きくするためには①売り上げを大きくする方法と②コストを小さくする方法があります。

ただやみくもに売り上げを大きくしても、コストが急上昇しては利益が出ません。他社との競争が激しい分野に進出しても、薄利多売になるだけです。したがってROEの上昇を意識するのであれば、単純に売り上げを増やすのではなく利ざやが大きい成長性のある分野での事業展開を目指す必要があります。逆にみれば、ROEが大きい会社は成長性のある分野で事業を展開している可能性があり、将来の株価動向についても期待できそうです。

②については、コストを小さくするために新しい経営手法を取り入れるとか、効率のためのITの利用なども重要です。さらに、人員のリストラもあり得ます。いずれにしても、分子の「利益を大きくする」ということは経営の基本的な姿ですから、株主からは前向きに評価されるでしょう。

財務戦略と株主還元

次に、分母の株主資本を小さくするためには③配当支払い(増配)と④自社株買いの二つの方法があります。配当で今期の利益を株主に支払い、さらに株主資本の一部である剰余金等を株主に配当として払えば、分母は小さくなります。自社株買いは会社が現金を払って自社の株を買うことです。いわば発行した株式の回収と、株主への資金の払い戻しです。取得した自社株式を消却すると資本剰余金が減ります。したがって、買い戻しに使った金額の分だけ株主資本は減少します。

このような方法は「財務戦略」とも言われます。売り上げを伸ばすといった営業面ではなくて、自社株買いといった財務面での工夫でもROEを高めることができます。財務戦略の中でも配当支払いや自社株買いは株主に報いるということで「株主還元」と言われます。株主還元は、株主に対してキャッシュが支払われるという観点から株主に好感されるだけではなく、財務戦略の結果としてROEが上昇します。

ただし、これにより会社の資金が外部に流出するという点は注意が必要です。株主資本(自己資本)が厚い会社なら問題はありませんが、同資本が乏しい会社が財務戦略を積極化させると、自己資本比率が低水準となります。これは会社の財務の不安定要素として、株式の売り要因になりかねないことには留意しておきましょう。

ROE重視の盲点

実は、ROEを高める方法として借り入れの増加がありますが、これも賛否両論があります。

例えば小売企業が銀行からお金を借り入れて新店舗を出せば、売り上げは増加して利益は大きくなります。ただ、株主資本は変わりませんのでROEは上昇します。また、薬品会社が銀行から借り入れして他社が開発した薬の特許を買えば、売上高や利益が一気に増えます。したがって、単にROEを高めたいのならば借金をして企業規模を拡大する方法もあるということです。

しかし、それは企業の安定性をあらわす自己資本比率が低下することを意味します。

自己資本比率(%) = 自己資本 / 総資本

企業の収益性を示すROEを高めるために借り入れを増やすと、自己資本比率が低下し企業の安定性が弱まるということになります。

実際、借り入れが大きくなると金利の支払いが増加します。もし売り上げが想定していたほど増えなければ、利払い費用に圧迫されて利益が減少する可能性もあります。すなわち、借り入れの増加で一時的にROEが高くなっても、売り上げが伸びないなど経営環境が悪化すれば、利益が減ってROEが急激に低下するおそれもあるということです。

したがって、基本的にROEを重視することは良いとしても、ROEを無理やり高めようとすれば大きなリスクを背負い込むことになります。これは「ショートターミズム(短期志向)」と言われます。短期的な利益追求に走ると、長期的な企業価値の向上にはつながらない可能性があるということです。

このような理由から、ROEを見るときには同時に自己資本比率で財務の安定性を確認することが大事です。ちなみに、上場企業の自己資本比率は40%程度です。したがって、これよりも大きく下回っている会社は、たとえROEが高くても安易に投資するのは問題です。ROEは会社四季報や会社情報に記載されています。また、自己資本比率も記載されています。

なお、ROEは業種によっても傾向が異なります。例えば、製造業では工場や機械などの設備投資に長期の資金が必要ですから、株式での調達が多く、結果として株主資本の比率が大きくなります。その結果、ROEを引き上げるのは簡単ではありません。

一方、サービス業は事業をするのに貸店舗でも構いませんから、資金の調達も銀行借り入れで間に合います。その結果、株式での調達は製造業ほど必要はありません。したがって、サービス業のROEは製造業に比べて高くなりやすいと言えます。したがって、ROEを投資指標として使うときは業種に注目し、さらに自己資本比率を確認しながらその水準の改善に注目していきましょう。

相場の徒然:変わる風景・変わらない努力

先日、大阪証券取引所を訪れましたが、昔を知っている者からすれば様変わりです。高層ビルですし、商業テナントも入居しています。かつては1階に立ち合い場があって、証券会社の社員が手ぶりという方法で情報を伝達し、株式の売買を成立させていました。

実は、1980年代後半に日経225先物取引の前身として、株先50という先物取引がありました。これも立ち合いで行っていましたね。先物の注文は、証券会社の大阪支店から電話でフロアに伝達し、場立ちが注文を差して成立させていました。いまの先物は発注から瞬時で約定しますから、牧歌的ともいえる状況でした。

もっともその当時はニューヨーク、シカゴ、そしてシンガポールの取引所でも先物取引は立ち合いでしたからね。世界のどこでも、相場は人と人との顔が見える対決でした。でも、決して簡単に勝てる相場でなかったことは今も昔も一緒です。時代が変わっても前向きで地道な努力が必要です。

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