
【新・相場道五十三次 第10回】PERの使い方と意外な意味
ここまで、株式を分析する指標を見てきましたが、それを投資にどのように役立てていけばよいのかを具体的に考えてみます。今回は株価収益率(PER)を検討しますが、その結果として、(1)利益のばらつきが小さければPERは高くなる。(2)比較的高いPERは、かえって投資の成果を高めるケースがある。(3)利益のばらつきの大きさがPERを押さえる可能性がある。という仮説にたどり着きます。
では、これらの仮説はどこまで信頼できるのでしょうか。
この記事のもくじ
日本株は予想PER=15倍が基準
一般に、PERは株価の割安感・割高感を示す指標として利用されます。
計算式は、「株価÷EPS(一株当たり利益)」、あるいは「時価総額÷当期純利益」です。ここでの利益は、予想値が使われます。株価は、過去の業績ではなく、将来の利益を織り込んで形成されるからです。なお、単位はPERの「倍」です。PERは「株価がEPSの何倍にあたるか」を示すからです。
例えば、日立製作所(6501)の予想EPSは41.42円です。この予想EPSは、同社のホームページから取得できる決算短信(29年3月期第3四半期)に掲載されています。3月7日の株価は631.7円ですから、日立の予想PERは次の通りです。
631.7円÷41.42円=15.3(倍)
なお、各社の予想PERは、日本経済新聞のホームページやヤフーファイナンスなどでインターネットで簡単に確認できます。
つぎに、東京株式市場全体(TOPIX)の予想PERを調べてみます。過去10年間(2017年初~2016年末)の平均(日次)は17.9倍でした。また、過去5年間(2012年初~2016年末)の平均(日次)は、14.7倍でした(図1参照)。
実は、株式市場の参加者は、株式の割安・割高を考えるときに、15倍を基準にすることが多いのです。そのうえで、以下の通り判断します。
- PERが15倍を超えると株価に割高感が出はじめる、あるいは15倍を超えると株価に割安感はない。
- PERが15倍を下回ると株価には割安感が出はじめる、あるいは15倍を下回ると株価に割高感はない。
確かにこの見方は、先述の過去5年のデータ(予想PER平均は14.7倍)に沿っています。
次に、米国株式市場も確認してみます。米国の主要な株式500銘柄で構成される株価指数である、S&P500を見ます。S&P500の過去5年の予想PERの平均は15.9倍でした(図2参照)。米国では、歴史的にPERは16倍程度と言われていますが、それを裏付けるデータです。したがって、基本的には、日本株では15倍が、また米国株では16倍が、株価の割高・割安を分ける基準という見方は当を得ています。
EPSのリスクがPERの大小に影響
ところで、米国株のPERは基本的に日本株のPERよりも大きくなっています。その理由の一つに、米国株のほうが一株当たり利益(EPS)の「ばらつき(ぶれ具合)」が小さいことに求められます。
例えばEPSが100円のA社とB社を考えます。同じEPSながら、A社の株価が1500円、B社が1200円に分かれることはあります。このとき、両社のPERはA社が15倍(=1500円÷100円)、またB社が12倍(=1200円÷100)となります。
PERが異なる理由として、A社は毎年手堅くこの水準の利益を上げるのに対して、B社の利益は変動しやすいということが想定されます。言い換えれば、利益に関しては、B社はA社よりもリスクが高いということです。投資家はB社の買いには慎重になり、その結果としてB社の株価はA社よりも低くなるということです。そして、これがPERに反映してきます。
実際に、日米の株価にそのような傾向があるかどうかを確認しました。
日本株と米国株の予想EPSの水準を見ます。2012年~2016年までの5年間では、日本TOPIX採用銘柄で予想EPSの平均は83.2円でした。一方、米国のS&P500採用銘柄の予想EPSの平均は114.1ドルでした。
次に、EPSのばらつきを示す標準偏差を調べます。この数値が大きい方が、EPSが増加したり減少したりといった、EPSのばらつきが大きいことになります。この数値を見ると、日本は18.1に対して、米国のS&P500の標準偏差は5.9。日本の方が、ばらつきが大きいようです。
ただ、EPSの平均値の違いが、標準偏差の差に影響している面はあります。この問題を調整して、同じ土俵で比べる方法として変動係数があります(変動係数=標準偏差÷平均)。これを見ると、日本は米国の4倍以上もあります。
すなわち、日本のEPSのばらつきは米国に比べて随分と大きいことにます。言い換えれば、投資家にとっては、ばらつきの大きい日本のEPSは、ばらつきの小さい米国のEPSに比べて予想しにくいということです。あるいは、EPSに関しては、日本は米国よりもリスクが高いということになります。
日米PERの見方
さて、足元の市場を見ていきましょう。2017年3月6日現在、米国株(S&P500)の予想PERが18.3倍であるのに対して、日本株(TOPIX)の予想PERは15.8倍にとどまります。図1と図2のように、米国株のPERは、昨年の前半から順調に拡大し、しかも過去5年で見ても最高値を更新している状況です。一方、日本株のPERは、平均値こそ上回ったの、2015年の半ばの水準にようやく届いた状況です。
株価をみても、年初来で3月6日までの上昇率は、米国株が+6.1%であるのに対して、日本株は+2.4%にとどまります。
PERからすれば日本株は米国株より割安だから、いずれ日本株は米国株にさや寄せするべく上昇するとの考え方があります。この見方は間違ってはいませんが、これまで述べた市場の観察からすれば、米国株と日本株をまったく同じ土俵で評価することには問題があるでしょう。少なくとも、EPSの変動について、日本と米国では大きな違いがあることには留意する必要があります。日本のEPSはばらつきが多い、すなわちリスクが米国に比較して高いために、PERの上昇が抑えられている可能性があることです。
為替レートがPERに作用する?
なお、日本のEPSのばらつきが米国に比べて大きいことについては、為替相場が関連しているとの見方が有力です。日本企業はドル円相場の影響を受けやすいことは確かです。例えば、トヨタ自動車は、ドル円相場の1円の動きで利益が400億円動くとの指摘もあります。他の企業でも、ドル円相場の利益(EPS)への影響は小さくありません。
そのドル円相場は、3月7日までの半年間だけでも17.86円動いています。したがって、この為替相場の動きが、EPSのばらつきというリスクを生み、それがPERを押さえる可能性があることは、頭の片隅に置いておく必要があります。
PERの使い方を突っこんで考える
さて、PERの使い方をさらに深く考えてみます。東証株価指数(TOPIX)採用銘柄のうち、時価総額の大きい1,000銘柄について、2002年はじめから2016年末までの過去15年間のデータを用いて、次のシミュレーションを行いました。
- PERが15倍未満の株式をすべて同じ金額だけ買ったポートフォリオを作り、毎年年末にPERが15倍未満の株式でポートフォリオが構成されるように見直す。これをここでは、「15倍未満P」と呼ぶ。
- 別個に、PERが15倍を超える株式をすべて同じ金額だけ買ったポートフォリオを作り、毎年年末にPERが15倍を超える株式でポートフォリオが構成されるように見直す。これをここでは、「15倍超P」と呼ぶ。
- これを15年間繰り返す。
その結果が図4です。表中、「トータルリターン」は、過去15年間の株式の値上がり益と配当を合計して、買い付け金額(投資元本)に対してどれだけの収益が上がったかを示しています。
トータルリターンを見ると、PER15倍超Pが、15倍未満のポートフォリオよりも勝っています。また、15倍超Pは、15倍未満Pのベータ値よりも低く、15倍超Pが相場全体(TOPIX)の動きに振り回されにくいという見方もできます。そのため、ここだけ見ると、PERが15倍超の株式は、15倍未満の株式よりもやや有利に見えます。ただ、平均リターンは0.2%しか違わないですから、両者に決定的な差があるとは言えません。
したがって、PERが15倍を上回っているからとりわけ不利、あるいは下回っているから有利とは言えません。また、15倍を下回っているから株価は割安であり、今後の値上がりが期待できるとも言えません。さらに、15倍を上回っているから株価は割高で、値下がりの懸念があるとも言えません。
低PERと高PERの意外な差
そこで、つぎに明確に高いPERと、明確に低いPERについて、改めてシミュレーションをおこないました。ルールは、前回と同様です。PERが30倍を超える株式を集めたポートフォリオ(30倍超P)と、PERが10倍を下回る株式を集めたポートフォリオ(10倍未満P)を計算しました。その結果は、図5の通りです。
前回(PER15倍の上下)のシミュレーションと比較すると、トータルリターンでは、30倍超Pと10倍未満Pのいずれも、前回のシミュレーションの結果をかなり上回っています。ただし、全体としては意外な結果です。まず、30倍超Pが10倍未満Pのリターンを大きく上回っています。しかも、リスク(標準偏差)でみても、30倍超Pが10倍未満Pよりも良好です。
PERの一般的な見方は、「低いPERの株式は高いPERの株式よりも相対的に高いリターンを得られる、あるいは前者は後者よりもリスクが低い」というものです。しかし、ここで示した結果は、それとはかなり異なるものです。すなわち、
- 高PER株式のグループが、低PER株式のグループよりも、リスクとリターンの両面で魅力的。
- 図5に見られるより高いPERとより低いPERの株式は、図4に見られる株式よりも、ハイリスク・ハイリターンである。
以上を総合的に見ると、時価総額が大きい銘柄群に投資するときには、あえて低PER銘柄を選んだり、高PER銘柄を避ける必要はなく、高PERに注目すべきとも言えます。もちろん、ハイリスクになる点は注意が必要です。
私見ですが、これは高いPERであっても、のちの利益成長が相対的に高い株価を裏付ける結果となっているのではないでしょうか。基本的には、高いPERの株式に対しては、投資家は利益成長を前向きに見ていることですが、少なくとも時価総額の大きい銘柄群では、その期待に応えるような利益になりやすいのではないでしょうか。TOPIXに採用されている銘柄のうち、時価総額の大きい1000銘柄については、相対的に経営が安定していることから、高いPERにふさわしい利益が確保され、それが株価の上昇と配当の支払いにつながっているという解釈もできそうです。
相場の徒然:11年目のロングラン
自分ごとで恐縮ですが、今般、拙著デイトレード入門―短期売買の極意(日経文庫)」が増刷となりました。初版の発行が2006年4月14日だったので、ほぼ11年目のロングランです。発行数は1版・2版の累計で4万1千部となりました。本当にありがたいことです。あらためて感謝いたします。
11年前は、ネットビジネスが本格化しはじめたころですが、それでもネットは、既存のリアルビジネスからはうさん臭く思われていた時代。このころライブドア事件などもありました。その後、テクノロジーの発達は加速します。スマートフォンが登場し(iPhoneは2008年にリリース)、高速移動通信(4G)、会員制交流サイト(SNS)やクラウドが登場し、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、ビッグデータや人工知能(AI)が当たり前になってきました。そんな中で、リアルの書籍を手に取ってくださる方がいらっしゃるのは感慨深いです。まだ、お役に立てる部分がありそうです。
実は、この本を執筆しているとき、書くかどうか迷った箇所がありました。それまで10数年間のプロのトレーダー(ディーラー)時代に、自分のトレードを支えた技術につながる部分です。それを話してしまうのはもったいないというケチな気持ちが、正直、かなり湧き上がりました。それでも、原稿を書き進めるにつれて、その部分を書かないと、読者の方に申し訳ないという気持ちが強まりました。結果、書くことにしました。
ただ、その部分は、取引を相当続けてきたい人には分かる話ですが、はじめて取引する人は気が付かないかもしれません。あるいは、私だけが取引のコツと思っていても、みなさんはすでに気が付いていることかもしれません。
それでも、この本の執筆を通じて、一つ得たものはあります。それは、どのような種類の書籍でも、少なくともどこかに著者のオリジナルなヒントや秘訣が書かれているという確信です。著者は、当初はそこまで書きたくないと思っていたとしても、自分の名前で出る本に対するプライドとして、真実を書いてしまうということです。
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