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【新・相場道五十三次 第25回】悩ましいからこそ使ってほしいトレンドライン

【新・相場道五十三次 第25回】悩ましいからこそ使ってほしいトレンドライン

廣重勝彦
廣重勝彦

前回はトレンドラインをご紹介しました。今回は、トレンドラインの課題と解決法を検討し、ドル円相場で実践例を見ます。そのうえで、テクニカル分析の本質にも少し触れてみます。

明快なルールと悩ましさ:上昇トレンドライン

トレンドライン分析に関するルールを整理すると、次の通りです。

A-1…切り上がる安値同士をつなぐと上昇トレンドラインが引ける(図A-1の1参照)。

A-1:トレンドラインの形成

A-2…上昇トレンドラインにまで株価が下がってくれば、買いのタイミング(図A-2の2参照)。

A-2:買いタイミング

A-3…上昇トレンドラインを株価が割りこめば、売りのサイン(図A-3の3参照)。

A-3:売りサイン

A-4…いったん割り込んだ上昇トレンドラインは、抵抗線(レジスタンスライン)に変わる(図の4参照)。

A-4:レジスタンスに変わる

明快なルールと悩ましさ:下降トレンドライン

  • B-1…切り下がる高値同士をつなぐと下降(下落)トレンドラインが引ける
  • B-2…下降トレンドラインにまで株価が上がってくれば、売りのタイミング
  • B-3…下降トレンドラインを株価が上回れば、買いのサイン
  • B-4…いったん上抜けた下降トレンドラインは、支持線(サポートライン)に変わる

このようにルールは単純明快であり、作図の手間もかかりませんが、だからトレンドラインが簡単かと言われれば、そうとも限りません。実際にトレンドラインを活用するためには、いくつか悩ましい部分があるためです。

あいまいなライン

まず、A-1とB-1のトレンドラインの引き方ですが、引く人やタイミングによって、違ったラインになってしまいます。これは、どの高値を基準にするのか、どの安値に線を引くのかの判断が難しいからです。言い換えると、いくつも高値がある中で、どの高値からラインを引くかといった基準があいまいだからです。

図1:2本種類のトレンドライン

図1の例では、どの安値を取るかによって、2種類のトレンドラインが引けます。そして、1と2のどちらが正しい・どちらが間違っているということは言い切れません。

つぎに、先述のA-2が買いのタイミングになるのは、トレンドラインがサポートラインとみなされるからです。株価がサポートラインを簡単には割り込まないならば、そのラインに近づく場面が買いのタイミングになります。一方、B-2が売りのタイミングになるのは、トレンドラインがレジスタンスラインだからです。株価はレジスタンスラインで押し戻されて、容易には上に抜けないと解釈されるからです。

しかし、A-3のケースは、トレンドラインが突破(ブレイク)されることを前提としています。これは、トレンドラインで株価は下げ止まるというA-2の考え方とは矛盾しています。さらに、株価がトレンドラインを割り込めば必ず下落相場になるわけでもなく、株価がすぐに反発して元の上昇トレンドに戻ることもあります。なお、トレンドラインを本格的に割り込むと、今度はそれまでのサポートラインが一転してレジスタンスラインに切り替わるというのが基本的な考え方です(A-4参照)。

このように、株価はトレンドラインで下げ止まらないことがあり、また株価がトレンドラインをいったん割り込んだ場合でもトレンドが変わらない場合(すぐに株価が反発したケース)があるということです。さらに、いままでサポートラインと考えられていたものも、レジスタンスラインになることがあることをみて、トレンドラインは使いにくいと考える人が多いのです。

強いトレンドラインは良い指標

このように見ると、トレンドラインを使いこなすのには難しい問題が多いのは事実です。それなのになぜトレンドラインを紹介しているのか。その最大の理由は、このラインが相場の転機を見つける有力なヒントを与えてくれるからです。

その例として、ドル円相場の底入れの局面をみます。ドルは2015年6月5日に対円で125.63円の高値を付けた後、下落に転じます。その後に底入れしたのは、1年2カ月後の2016年8月18日につけた99.89円でした。図2は、その時の動きを示しています。

(図2)ドル円相場

このチャートには、明確な下降トレンドラインを引くことができます。その起点1は、2016年1月29日の121.14円であり、同年5月30日の111.12円と7月20日の106.89円、そして9月2日の103.92円を通過するトレンドラインでした。

ドルの下落がどこで終わるか探っていたとしたら、このトレンドラインが大きなヒントを与えてくれたはずです。ポイントは、このトレンドラインが4回にわたり、ドルのレジスタンスラインとして機能したことです。すなわち、このトレンドラインの水準は、4度にわたりドルの上昇を抑え込みました。

これが3回であったとしても、トレンドラインとしては注目されます。ですが、この時は4回です。だからこそ、このラインは下降トレンドラインとして重要だったのです。このことを逆にみれば、ドルがこの強い下降トレンドラインを突破することがあれば、すなわちこれまでブレイクが難しかった抵抗線をブレイクできたならば、それはドルの下落相場が終了し、逆にドルの上昇相場が始まったと強く推測することができるということです。

このチャートでは、5の時点がそれです。具体的には、2016年10月3日の101.65円です。明確に下降トレンドラインを突破したことで、ドルの下落が終わり、上昇に転じた可能性があると判断すべき時でした。

総合的に判断する

ただし、実践においては、強いトレンドラインのブレイクであっても、それだけで、トレンドが変わったと判断するのは早すぎます。

実は、わたしは当時、ドル円相場は反転した可能性が高いとみていました。というのも、トレンドラインのブレイクに加えて、他のテクニカル手法でも反転のサインがあったからです。それは、図3で示すような相場の反転パターンであるヘッド・アンド・ショルダーが見られたことです。

(図3)ヘッド・アンド・ショルダー

ヘッド・アンド・ショルダーは、三つの天井、あるいは三つの底値により、相場の反転を示す価格のパターンです。前者は三尊天井、後者は三尊底とも言われます。図3のように、ヘッド・アンド・ショルダーによる底入れ(三尊底)のパターンは、まず一つの底値aを入れたあと、あらためてaより安いbを入れて反発した後に再度下落するものの、aよりも高いcで下げ止まって上昇に転じるというものです。その際に、図3の通り、二つの戻り高値(この高値は「肩」という)を結んだ点線(ネックライン)を超えると(dの水準)、相場は底入れしたと判断します。

(図4)ドル円相場

実際のドル円相場においても、このパターンが確認できました。2016年7月8日の100.54円がa、同年8月18日の99.89円がb、そして9月21日の100.32円がcでした。ネックラインを越えた10月4日に102.90円に完成したことで、ドルは本格的に底入れして、上昇トレンドに転じたと判断できます。

この時点で、2016年10月3日下降トレンドラインのブレイクに、10月4日のヘッド・アンド・ショルダーの完成が加わったことで、2015年6月5日の125.63円を天井としたドルの下降トレンドは、2016年8月18日の99.89円で底入れして上昇トレンドに転じたと判断できます。この判断は、実際に底入れした8月18日よりも一カ月半後ですが、その時点でのドル円は102.90円。その後に2016年12月15日には118.18円まで上昇したことを考えれば、決して遅くない判断です。

このように、トレンドラインを使った株価の判断には難しい面はあるものの、他のテクニカル指標などを加えて、総合的に見ることにより、トレンドライン分析を、実際の投資に使えるレベルにすることができます。

トレンドラインの注意点

教科書的な原則は、上昇トレンドラインならば、もっとも低い株価同士を結ぶことになります。これは、客観的に見て取れる安値同士を結ぶので、だれが引いても同じです。ただ、このラインは、現在の株価水準からは大きく離れていることが多く、実践では使いにくいものになってしまいがちです。

そこで、自分の目でチャートをみて、実際のトレンドを表しているとみられるラインを引いてみましょう。「相場の徒然」でも述べますが、テクニカル分析は主観的でこそ生きる面が大きいと考えております。というのも、テクニカル分析は、経験値が威力を発揮する世界だからです。そのためトレンドラインでは、多くの銘柄、さまざまな局面で自ら引いてみて、それを使って相場を読むことを繰り返すことが大事です。それにより、自分に合った方法を見つけることができるでしょう。

ポイントは、どのようにラインを引けばよいのかの判断に迷うときは、無理やりラインを引かないことです。チャートをみてここにラインが引けるという直観を得たときにだけラインを引いてください。トレンドラインは万能でもないし、いつでも使えるわけではありません。そして、投資の判断を行う方法は他にもたくさんありますから。

先述のドル円相場で見たように、自分でこれは信頼できそうだなという確信を得たトレンドラインが見つかるまで待った上でラインを引き、他の指標などと組み合わせて総合的に判断することで、投資のパフォーマンスは向上するはずです。

相場の徒然:主観と客観

ご説明してきたとおり、トレンドラインの引き方は、直感に頼る部分が大きいのです。その結果、トレンドラインは、人それぞれに違います。だからと言って、トレンドラインがいい加減というわけではありません。トレンドラインというのはそのようなものと理解する必要があります。すなわち、テクニカル分析の多くは、主観的なものです。

この点をとらえて、テクニカル分析は、あいまいだから役に立たないと批判する人が多いことも事実です。その背後には、「“客観”は優れており、“主観”は劣っている」という認識がありそうです。議論などをする際にも、「あなたの意見は主観的だ」と言われれば、それは非難されていることになります。ここには、「客観は正しい」というイメージがあります。

古来より、「Investment is an “art” instead of “science”(投資は“サイエンス”ではなく“アート”だ)」という主張があります。サイエンス(科学)は理論が柱である一方、アート(芸術)は経験や直観が尊重されます。この主張が正しいか正しくないかという議論は尽きませんが、投資のプロは、投資はサイエンスとアートの両方の要素を含んでいると見ているのではないでしょうか。

サイエンスは理論ですから、誰もが納得する客観性が求められます。一方、アートは個人の経験や直観によるものですから、まさに主観的なものであるべきです。したがって、サイエンスとアートは比べられるものではなく、どちらが勝っているということも言えません。両社は対立するものというよりも、補完し合っているものというべきでしょう。そして、この見方に立てば、「主観」が「客観」に劣るということにはならないはずです。

テクニカル分析のなかでもトレンドラインは、まさにアートです。したがって、主観的であることを否定的に見るよりも、主観的であることこそが重要であり、そこに存在価値と考えることが大事です。というのも、主観的であれば、他人が追随することが難しくなりますから。言い換えれば、主観だからこそ自分のエッジ(強み)になります。

したがって、ラインを引くために画一的なルールを求めるのででななく、経験のなかで自分の方法を見つけることが重要でしょうね。

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