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悩ましいからこそ使ってほしいトレンドライン

悩ましいからこそ使ってほしいトレンドライン

前回はトレンドラインをご紹介しました。今回は、トレンドラインの課題と解決法を検討し、ドル円相場で実践例を見ます。そのうえで、テクニカル分析の本質にも少し触れてみます。

明快なルールと悩ましさ

トレンドライン分析に関するルールを整理すると、次の通りです。

[上昇トレンドライン]

  • (A-1) 切り上がる安値同士をつなぐと上昇トレンドラインが引ける(図A-1の①参照)。
  • A-1:トレンドラインの形成

  • (A-2) 上昇トレンドラインにまで株価が下がってくれば、買いのタイミング(図A-2の②参照)。
  • A-2:買いタイミング

  • (A-3) 上昇トレンドラインを株価が割りこめば、売りのサイン(図A-3の③参照)。
  • A-3:売りサイン

  • (A-4) いったん割り込んだ上昇トレンドラインは、レジスタンスライン(上値抵抗線)に変わる(図の④参照)。
  • A-4:レジスタンスに変わる

[下降トレンドライン]

  • (B-1) 切り下がる高値同士をつなぐと下降(下落)トレンドラインが引ける。
  • (B-2) 下降トレンドラインにまで株価が上がってくれば、売りのタイミング。
  • (B-3) 下降トレンドラインを株価が上回れば、買いのサイン。
  • (B-4) いったん上抜けた下降トレンドラインは、サポートライン(下値支持線)に変わる。

このようにルールは単純明快です。また、ラインを引くだけなので、手間もかかりません。だからトレンドラインが簡単かと言われれば、そうとも言えません。これは、実際にトレンドラインを活用しようとすると、いろいろと悩ましいさがあるためです。

あいまいなライン

まず、(A-1)と(B-1)のトレンドラインの引き方ですが、引く人によって(あるいは同じ人でも時によって)違ったラインになってしまいます。これは、どの高値を基準にするのか、どの安値に線を引くのかの判断が難しいからです。言い換えると、いくつも高値がある中で、どの高値からラインを引くかといった基準があいまいだからです。

図1:2本種類のトレンドライン

図1の例では、どの安値を取るかによって、2種類のトレンドラインが引けます。そして、①と②のどちらが正しい・どちらが間違っているということは言い切れません(それは、投資の結果次第です)。

つぎに、先述の(A-2)が買いのタイミングになるのは、トレンドラインがサポートライン(下値支持線)とみなされるからです。株価がサポートラインを簡単には割り込まないならば、そのラインに近づく場面が買いのタイミングになりますから。

一方、(B-2)が売りのタイミングになるのは、トレンドラインがレジスタンスライン(上値抵抗線)だからです。株価はレジスタンスラインで押し戻されて、容易には上に抜けないと解釈されるからです。

しかし、(A-3)のケースは、トレンドラインが「ブレイク(突破)」されることを前提としています。これは、トレンドラインで株価は下げ止まるという(A-2)の考え方とは矛盾しています。さらに、株価がトレンドラインを割り込んだからといって、常に下落相場になるわけでありません。株価がすぐに反発して元の上昇トレンドに戻る場合もあります。

なお、トレンドラインを本格的に割り込むと、今度はそれまでの上昇トレンドライン(サポートライン、下値支持線)が、レジスタンスライン(上値抵抗線)に切り替わるというのがトレンドライン分析の考え方です(A-4参照)。

このように、株価はトレンドライン(支持線)で下げ止まらないことがあり、また株価がトレンドラインをいったん割り込んだ場合でもトレンドが変わらない場合(すぐに株価が反発したケース)があるということです。さらに、いままでサポートラインと考えられていたものも、レジスタンスライン(抵抗線)になることがあることをみて、トレンドラインは使いにくいと考える人が多いのです。

強いトレンドラインは良い指標

このように見ると、トレンドラインには難しい問題が多いのは事実です。それなのになぜトレンドラインを紹介しているのか。その最大の理由は、このラインが相場の転機を見つける有力なヒントを与えてくれるからです。

その例として、ドル円相場の底入れの局面をみます。ドルは2015年6月5日に対円で125.63円の高値を付けた後、下落に転じます。その後に底入れしたのは、1年2カ月後につけた99.89円(2016年8月18日)でした。

(図2)ドル円相場

図2は、その時の動きを示しています。このチャートには、明確な下降トレンドラインを引くことができます。その起点①は、121.14円(2016年1月29日)であり、②111.12円(同年5月30日)、③106.89円(同年7月20日)、そして④103.92円(同年9月2日)を通過するトレンドラインでした。

ドルの下落がどこで終わるか探っていたとしたら、このトレンドラインが大きなヒントを与えてくれたはずです。ポイントは、このトレンドラインが4回(①~④)にわたり、ドルのレジスタンスライン(抵抗線)として機能したことです。すなわち、このトレンドラインの水準は、4度にわたりドルの上昇を抑え込みました。

これが3回であったとしても、トレンドラインとしては注目されます。ですが、この時は4回です。だからこそ、このラインは下降トレンドラインとして重要だったのです。このことを逆にみれば、ドルがこの強い下降トレンドラインを突破することがあれば、すなわちこれまでブレイクが難しかった抵抗線をブレイクできたならば、それはドルの下落相場が終了し、逆にドルの上昇相場が始まったと強く推測することができるということです。

このチャートでは、⑤の時点がそれです。具体的には、101.65円(2016年10月3日)です。明確に下降トレンドラインを突破したことで、ドルの下落が終わり、上昇に転じた可能性があると判断すべき時でした。

総合的に判断する

ただし、実践においては、強いトレンドラインのブレイクであっても、それだけで、トレンドが変わったと判断するのは早すぎます。

実は、わたしは当時、ドル円相場は反転した可能性が高いとみていました。というのも、トレンドラインのブレイクに加えて、他のテクニカル手法でも反転のサインがあったからです。

(図3)ヘッド・アンド・ショルダー

それは、ヘッド・アンド・ショルダーという相場の反転パターンが見られたことです。

ヘッド・アンド・ショルダーは、三つの天井、あるいは三つの底値により、相場の反転を示す価格のパターンです。前者は三尊天井、後者は三尊底とも言われます。図3のように、ヘッド・アンド・ショルダーによる底入れ(三尊底)のパターンは、まず一つの底値○aを入れたあと、あらためて○aより安い○bを入れて反発。その後、再び下落するものの、○aよりも高い○cで下げ止まって上昇に転じるというものです。その際に、図3の通り、二つの戻り高値(この高値は「肩」という)を結んだ点線(「ネックライン」という)の水準を超えると(○dの水準)、相場は底入れしたと判断します。

(図4)ドル円相場

実際のドル円相場においても、このパターンが確認できました。100.54円(2016年7月8日)が○a、99.89円(同年8月18日)が○b、そして100.32円(同年9月21日)が○cでした。そのうえで、ネックラインを越えた同年10月4日(102.90円)に、ヘッド・アンド・ショルダー(三尊底)が完成し、ドルは本格的に底入れして、上昇トレンドに転じたと判断できます。

この時点で、下降トレンドラインのブレイク(2016年10月3日)に、ヘッド・アンド・ショルダーの完成(同年10月4日)が加わったことで、125.63円(2015年6月5日)を天井としたドルの下降トレンドは、99.89円(2016年8月18日)で底入れし、上昇トレンドに転じたと判断できます。この判断は、実際に底入れした8月18日よりも一カ月半後になりましたが、その時点でのドルは102.90円。その後に118.18円(2016年12月15日)まで上昇したことを考えれば、決して遅くない判断です。

このように、トレンドラインを使った株価の判断には難しい面はあるものの、他のテクニカル指標などを加えて、総合的に見ることにより、トレンドライン分析を、実際の投資に使えるレベルにすることができます。

トレンドラインの注意点

なお、ラインの引き方は、さまざまな方法を試してみましょう。

教科書的な原則は、上昇トレンドラインならば、もっとも低い株価同士を結ぶことになります。これは、客観的に見て取れる安値同士を結ぶので、だれが引いても同じです。ただ、このラインは、現在の株価水準からは大きく離れていることが多く、実践では使いにくいものになってしまいがちです。

そこで、自分の目でチャートをみて、実際のトレンド(相場の基調)を表しているとみられるラインを引いてみましょう。その安値は自分で「これだ」と判断するものです。すなわち、主観的なラインです。

「相場の徒然」でも述べますが、私は、テクニカル分析は主観的でこそ生きる面が大きいと考えております。というのも、テクニカル分析は、経験値が威力を発揮する世界だからです。そのためトレンドラインでは、多くの銘柄、さまざまな局面で自ら引いてみて、それを使って相場を読むことを繰り返すことが大事です。それにより、自分に合った方法を見つけることができるでしょう。

ただし、注意点は、どのようにラインを引けばよいのかの判断に迷うときは、無理やりラインを引かないことです。ご自分でチャートをみて、ここにラインが引けるという直観を得たときにだけ、ラインを引いてください。トレンドラインは万能でもないし、いつでも使えるわけではありません。そして、投資の判断を行う方法は他にもたくさんありますから。

先述の、ドル円相場の解説の通り、自分でこれは信頼できそうだなという確信を得たトレンドラインが見つかるまで待って、そしてラインを引いてください。そのうえで、他の指標などと組み合わせて総合的に判断することで、投資のパフォーマンスは向上するはずです。

相場の徒然:主観と客観

ご説明してきたとおり、トレンドラインの引き方は、直感に頼る部分が大きいのです。その結果、トレンドラインは、人それぞれに違います。だからと言って、トレンドラインがいい加減というわけではありません。トレンドラインというのはそのようなものと理解する必要があります。すなわち、テクニカル分析の多くは、主観的なものです。

この点をとらえて、テクニカル分析は、あいまいだから役に立たないと批判する人が多いことも事実です。その背後には、「“客観”は優れており、“主観”は劣っている」という認識がありそうです。議論などをする際にも、「あなたの意見は主観的だ」と言われれば、それは非難されていることになります。ここには、「客観は正しい」というイメージがあります。

ところで、古来より、「投資は“サイエンス”ではなく“アート”だ(Investment is an art instead of science)」という主張があります。サイエンス(科学)は理論が柱である一方、アート(芸術)は経験や直観が尊重されます。この主張が正しいか正しくないかという議論はあります。ただ、多くの投資のプロは、投資はサイエンスとアートの両方の要素を含んでいると見ているのではないでしょうか。

サイエンスは理論ですから、誰もが納得する客観性が求められます。一方、アートは個人の経験や直観によるものですから、まさに主観的なものであるべきです。したがって、サイエンスとアートは比べられるものではありませんし、ましてサイエンスがアートよりも勝っているということも言えません。両社は対立するものというよりも、補完し合っているものというべきでしょう。

そして、この見方に立てば、「主観」が「客観」に劣るということにはならないはずです。

テクニカル分析のなかでもトレンドラインは、まさにアートです。したがって、主観的であることを否定的に見るよりも、主観的であることこそが重要であり、そこに存在価値と考えることが大事です。というのも、主観的であれば、他人が追随することが難しくなりますから。言い換えれば、主観だからこそ自分のエッジ(強み)になります。

したがって、ラインを引くために画一的なルールを求めるのででななく、経験のなかで自分の方法を見つけることが重要でしょうね。

むさし証券チーフストラテジスト、北海道大学新渡戸カレッジ・フェロー。北海道大学を卒業後、山種証券(現SMBCフレンド証券)に入社。エクイティ・デリバティブ取引のディーラーとなり、その後、世界最大の穀物商社カーギルでの日本株運用部長、みずほ証券エクイティ部のトレーディング担当部長などを歴任。一時、ベンチャー企業の立ち上げに参画し、上場を果たした。さらに、アジア中心に海外勤務を経て現職。北大でもグローバル人材の育成を行っている。法政大学経済学修士、日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会正会員。著書に、「デイトレード入門」「株式先物入門」「FX入門」「初めての海外個人投資」(いずれも日本経済新聞出版社刊の日経文庫)など。
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