
【新・相場道五十三次 第16回】株価をデータと心理で考える
前回のコラムでは、投資のための経済分析のうち、GDPを取り上げました。株価は景気の影響を受けるのですが、その景気を考えるうえで、GDPが重要な基準になるからです。今回も、GDPをもう少し深堀りします。そのうえで、次第に短い期間の景気の動きをとらえる方法を検討します。
この記事のもくじ
四半期GDPの見方
前回は、年間のGDPを見ましたが、現実の株式相場では四半期ごとのデータが注目されます。例えば、日本の2016年第4四半期(2016年10-12月)の実質GDP成長率は、第一次速報値として今年2月13日に発表され、前期比(16年第3四半期比)年率1.0%でした。そして、第2次速報値は3月8日に発表され、同1.2%に上方修正されました(図1、図2参照)。なお、前期比年率という表現は、実質GDPの四半期の変化を、1年間の変化に焼き直して表現したものです。
図1は、二つのことを教えてくれます。まず、潜在成長率と比較します。前回、潜在成長率を、国際通貨基金(IMF)のデータを使って、前年比0.5%とみなすことにしました。そうすると、今回の発表分の1.2%は潜在成長率を大きく上回っています。これは、景気が拡大しているとして、株式相場に対しては前向きな材料です。
もう一つは、エコノミストの「予想」と、実際に発表された「実績」の比較です。実際の数値は予想を下回っています。この二つの見方を総合すれば、景気は回復局面にあるものの、期待されるほど強くはないと判断できます。
この景気の判断から株式相場を考えると、株価は中期的には回復基調にあるものの、当面は上値が限られるだろうと推測できます。現実に、日経平均株価は、20000円を超えられないまま軟化しており、この推測に近い動きになっています。
短い期間の景気指標
さらに、短い期間で、景気を判断するための指標としては、「月例経済報告」があります。これは、政府(内閣府)が発表する景気判断です。今年3月23日に発表された3月の月例経済報告で内閣府は、「景気は、一部に改善の遅れも見られるが、穏やかな回復基調が続いている。」と指摘しました。
月例経済報告は、文言に変化があるかどうかが注目されます。現実は、3月まで4カ月連続して同じ文言で、政府は景気に目立った変化があるとは見ていません。
株式相場に対して一定の影響が見られる景気指標として、「景気ウォッチャー調査」が挙げられます。同調査は「街角景気」とも言われます。その集計のために、コンビニやスーパーの店長、タクシー運転手など、景気に敏感な業種の人を対象に、全国11地域で、2,050人に対して聞き取りを行います。毎月25日~月末に調査し、翌月第6営業日に結果が発表されます。
景気ウォッチャー調査の結果は、景気の現状を表す指数と、2-3カ月先を示す指数で示されます。この二つの指数は、それぞれ現状判断DIと先行き判断DIと呼ばれます。50が景気の良い悪いの分岐点で、50より上が良い、50より下が悪いと評価されます。
景気ウォッチャーと株価
この指標が注目されるのは、前月末の調査がすぐに発表されるためです。景気の今の状況が反映されているだけに、株式相場にも影響を与えます(図3参照)。
実際、過去10年の日経平均株価の月次データと、現状DIの相関係数は0.42、また先行きDIの相関係数は0.44です。統計学的には、日経平均株価と景気ウォッチャーのDIとの間には、「かなりの正の相関」があると言えます。その意味は、景気ウォッチャーのDIが改善するとき株価は上昇しやすく、逆にDIが悪化するときには株価が下落しやすいということです。
そこで、現実の景気ウォッチャー調査を見ますと、4月発表(3月調査)分は、現状判断DIが47.4と、3カ月連続の低下でした(ちなみに、昨年12月は51.4だった)。また、先行き判断DIは48.1と前月(50.6)から低下しました。現状、先行きともに芳しくない結果です。日経平均株価は3月13日(終値19663円)に当面のピークを付けて、その後は18000円台前半まで下げましたが、その要因の一つに景気ウォッチャー調査に見られる景気の先行き不透明感がありそうです。
ハードとソフトのジレンマ
ただし、景気ウォッチャー調査だけを見ておけば足りるというわけではありません。同調査は、景気を判断するための有力な材料の一つにとどまります。
そこで、他の有力な景気指標である鉱工業生産を見ましょう(図4参照)。これは、日本の製造業の活動水準を示すものです。その推移は、グラフに示されていますが、昨年の後半から上昇基調にあり、直近(今年2月)の数値は、2014年3月以来3年ぶりの高水準です。景気ウォッチャーとはかなり異なる結果です。
この差は、「ハードデータ」と「ソフトデータ」の違いに原因を求めることができます。まず、ハードデータは、売上高、受注や雇用者数など金額や人数で示される指標です。他方、ソフトデータは、消費者や企業の購買担当者などへのアンケート通じて判明した、その人たちの心理状態(消費に対して前向きかどうかなど)を示す指標です。言い換えれば、ハードデータは、現実の金額や人数になって表れたものであり、現在ないし過去の景気の状態を示しています。一方、ソフトデータは、関係者の目を通した、現在から将来に対する景気の状態を示唆しています。
したがって、ハードデータが良いものの、ソフトデータが良くない今の状況は、ひとびとが、足元の景気は良いけれど、先行きに対しては不透明と感じていると解釈できるでしょう。この見方を反映すれば、株式相場は上昇基調ではあるものの、上値が重い状況になりやすいと言えます。実際、現在の株価は、昨年からみれば高値圏にありますが、上値を押さえられており、まさに経済指標から見た状況を反映しています。
悲観主義と楽観主義
実は、ハードデータとソフトデータのジレンマは、米国でも見られます。米国のGDPの約7割を占めるのは個人消費です。したがって、米国の景気を知るには、家計(消費者)の動きをみることが基本です。これを示す重要指標は、小売売上高です。百貨店・スーパーマーケットの販売額や、レストランのサービス額など、小売部門の売上高を月次でまとめて、その増減を見るものです。これはハードデータです。一方、個人消費に関するソフトデータに、コンファレンスボード(全米産業審議会)の消費者信頼感指数があります。これは民間の経済研究所(コンファレンスボード)が消費者に対して実施した、経済・雇用・所得に関するアンケート結果を指数化したものです。
今年3月の小売売上高は前月比0.2%減と、二カ月連続で減少しました(図5参照)。これに対して、消費者信頼感指数は、16年ぶりの高水準でした。米国では、日本とは逆で、ハードデータはよくありませんが、ソフトデータは絶好調です。
これらの指標をみると、米国の景気は足元では緩い回復にとどまるものの、将来は急上昇するとみている人が多いと解釈できます。トランプ大統領が選挙公約として掲げた減税やインフラ投資が実施されれば、米国経済が拡大するとみている人が多いということでしょう。
国民性が出る?景気の先行き見通し
余談ですが、このようなソフトデータとハードデータのジレンマには、それぞれの国民性が現れているようにも見て取れます。
日本人は日本の景気が良くても、先行きに対しては慎重(やや悲観的)です。これに対して米国人は、足元の景気はそれほど良くなくても、先行きは絶好調とみています。潜在的な慎重と、潜在的な楽観の精神性の違いが現れているように見えます。201年の日経平均株価が20000円をなかなか上回れなかった一方、NYダウが史上最高値を更新したのは、このような考え方の違いが反映されている面もありそうです。
相場の徒然:“地政学的リスク”はほどほどに
市場では今、「地政学的リスク」という言葉が飛び交っています。これは、特定の地域での軍事的な緊張が高まることで、市場のボラティリティが急速に上がるリスク(株式相場や為替相場が乱高下するリスク)です。軍事行動は、市場参加者が予想できることではありませんから、このリスクを評価することは難しい。いわゆるテールリスク(めったに起こらないが、一旦起これば、経済にきわめて大きな影響が発生するリスク)といえるでしょう。
ところで、地政学的リスクという言葉が市場で使われ始めたのは、それほど昔のことではありません。2002年に連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長(当時)が“Geopolitical Risk(地政学的リスク)”と述べたのが始まりでしょう。私も、そのとき初めて、この言葉を知りました。あれから15年。地政学的リスクという言葉は氾濫し、流行語大賞になりそうな勢いです。
もちろん、地政学的リスクについては、あるていど目配りをしておく必要があります。テロや紛争が絶えない現在においては、楽観視は禁物です。しかし、このリスクについて過度に警戒することも問題です。何もできなくなってしまうからです。
「有事の円高」は言い過ぎ
しかし、物事の本質を考えれば、おかしなことです。朝鮮半島問題が地政学的リスクと指摘されていますが、地政学的事件の当事国になりかねない日本の通貨が買われるというのは理屈に合わないでしょう。
もちろん、先ほど述べた方程式を背景に、不測の事態へのリスクが高まれば、円が買われることはあるでしょう。また、日本が世界最大の純債権国だから、円は安全通貨という見方も有力です。
それでも、日本周辺での地政学的リスクが高まるとき、円が必ず買われるとは言えません。というのも、海外ファンドのマネージャーが、日本周辺のリスクが高まるときに円を買うことが許されるでしょうか。
そう考えると、有事の円買いをする人がある一方、周辺のリスクの高まりに円を売らなければならない人も少なからずいるはずです。したがって、地政学リスクだけをたよりに、円を買い続けることには無理があるでしょう。ですので、今の円高を地政学リスクだけで説明するのは短絡的すぎます。
投資家としては、評価が難しい地政学的リスクについて悩むのは、あまり意味がありません。それよりも、米国の景気の状況と、米国の経済政策の動向に的を絞ることが大事でしょうね。
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