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ブラック・スワンを手なずける

ブラック・スワンを手なずける

9月の株式相場とドル円相場は、北朝鮮問題という地政学的リスクを背景に、波乱含みの場面もありました。ただ、核実験以降は、北朝鮮の新たな動きがみられないことから、市場は落ち着きを取り戻し始めています。

しかし、リスクが払しょくされたわけではありません。さらに複雑な事態に陥る危険性は残ります。そこで、今回も引き続き地政学的リスクについて考えてみます。とりわけ、過去においては、このようなリスクに対して株式が頑強だったということをご説明します。

ブラック・スワン探し

株式相場では、円高などの想定されるリスクについては、その可能性に応じて株価が形成されます。例えば、円相場が一定の水準を超えれば、円高が加速するリスクが高まったとして、株価への売り圧力が強まります。これに対して地政学的リスクは、そのリスクがありそうだということは感じていても、その内容や市場へのインパクトは漠然としており、現実にどう対応するかの判断が難しいという問題があります。

証券市場を取り巻くリスクの多くは、過去に何度も繰り返されていて、経験のある市場参加者であれば、ある程度は想定ができるものです。これに対して、地政学的リスクは、いつ現実になるのか分かりません(あるいは、現実にならないかもしれません)。また、現実になったとしても、株式相場にどれほどの影響があるかを事前に計ることはできません。

このようなリスクは、『ブラック・スワン』という言葉を思いださせます。世界的なベストセラーとなったナシーム・タレブ著『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質(上・下)』で有名になりました。中世のヨーロッパでは、スワン(白鳥)は白い鳥であり、黒い白鳥は存在しない(あり得ない)とされていました。しかし、その後、オーストラリアが発見されると、そこには黒鳥がいたのです。突然、西洋の常識がひっくり返りました。

タレブは、このブラック・スワンの逸話を通して、あり得ない事が起こることは予測不能だが、ひとたびそれが起きれば社会に非常に大きなインパクトを与えると述べています。

この本が出版されたのが2007年ですが、まさにこの年に、アメリカで、サブプライム・ショックが起こります。最上級格付け(AAA)の債券が、突如としてデフォルト(債務不履行)に見舞われました。すなわち、「あり得ないこと」が起きてしまったのです。それは、翌年のリーマン・ショック(米大手投資銀行のリーマン・ブラザーズの破たん)につながります。さらに、世界経済が大不況(グレート・リセッション)に陥り、「社会に非常に大きなインパクト」を与えました。これはまさに、ブラック・スワンが現れたということです。

タレブ氏の予言が当たったことで、その後、市場ではブラック・スワン探しが活発になりました。いまでも、次のブラック・スワンが何かを探る動きが続いています。英国のEU(欧州連合)離脱をめぐる国民投票や、米国の大統領選挙、あるいはフランスの大統領選挙などが、その候補となりました。ただ、結果的には、いずれもブラック・スワンと判断するには時期尚早です。たしかに、英国のBREXIT(EU離脱)が現実になり、トランプ氏が大統領選挙で勝ち、「あり得ないこと」が起きましたが、「社会に非常に大きなインパクト」を与えたとまでは言えないからです。

ブラック・スワンは何か

ところで、今年1月に開催されたダボス会議(※)で発表された「グローバル・リスク報告書2017」によれば、もっとも発生の可能性が高いグローバル・リスクは次の通りです。

  1. 1.異常気象
  2. 2.大規模な非自発的移民
  3. 3.大規模な自然災害
  4. 4.大規模なテロ攻撃
  5. 5.大規模なデータの詐欺と盗難

第1位は異常気象でした。日本では、東京の8月の降雨連続日数は21日と、8月中では40年ぶりの長雨でした。また、大型ハリケーンが米国に続けざまに上陸したことも、異常気象や、第3位の「大規模な自然災害」に当たります。ダボス会議の警告は、さっそく現実になってしまいました。

ダボス会議では、もっともインパクトが大きいグローバル・リスクも指摘しています。

  1. 1.大量破壊兵器
  2. 2.異常気象
  3. 3.水の危機
  4. 4.大規模な自然災害
  5. 5.気候変動の緩和や適応の失敗

以前のグローバル・リスクは経済や金融に関するものが上位でしたが、最近は気候や環境、そして地政学的リスクが上位に入っています。
とりわけ、今年は「大量破壊兵器」が第1位になりました。世界のVIPが集まる会議で、最大の懸念事項は、米国の保護主義でも、中国の不良債権問題でもなく、核問題だったのです。そのような時代だけに、北朝鮮の核開発に対しては、市場は敏感に反応しました。

※ダボス会議の正式名称は、『世界経済フォーラム(World Economic Forum、WEF)」。世界の各界のリーダー(ビジネス、政治、アカデミア、映画・芸術、そしてスポーツなどのVIP)2500人が、スイスの保養地ダボスに集まる会議です。

朝鮮半島をめぐる地政学的リスクについては、軍事的な衝突となる確率は測定できるはずもなく(過去に例がない)、またそのインパクトも相当な大きさになるはず(とりわけ周辺国にとって)ですので、ブラック・スワンの一種と言えそうです。

ブラック・スワンにどう対応するのか

では、このようなリスクに対して、どのような態度で臨めばよいのでしょうか。次の三つが考えられます。

  1. その1:投資をやめる。
  2. その2:地政学的リスクは考えても仕方ないので無視する。
  3. その3:不測の事態に備えながらも、投資は続ける。

私の経験では、このようなリスクに対しては、「その1」か、あるいは「その2」の態度をとる人が多いでしょう。その1は、「投資をしなければ安全だ」という考え方に基づいています。そもそも、この考え方は、日本人に根付いているように見えます。

日本銀行の調査(2017年3月末現在)では、日本の個人金融資産は1,809兆円。そのうち、現金・預金は932兆円(個人金融資産全体の51.5%)、保険は366兆円(同20.2%)で、両者の合計は、1,298兆円(同71.7%)です。言い換えれば、金融資産のうち7割超が、いわゆる「安全資産」です。利益よりも安全を優先する人が非常に多いことを示しています。ちなみに、株式等は181兆円(全体の10.0%)、投資信託は99兆円(同5.4%)で、全金融資産のうち投資は一部にとどまっています。

ところが、地政学的リスクの観点から、日本の預貯金や保険は安全なのか。例えば、日本が軍事的な紛争に巻き込まれた場合には、絶対に安全と言い切れる人はいないでしょう。

とりわけ、インフレの問題が重要です。そのような特殊な事態が起きるとき、物価が上昇することで、現金・預金の購買力が低下することが考えられます。モノの値段が1年間で5%上がれば、いま100万円で買えたモノが、1年後には105万円なければ買えなくなります。その物価に追い付くだけ金利が上がればよいのですが、物価が急上昇すれば、それには間に合いません。したがって、地政学的リスクを前にすると、お金が満額支払われるのかという問題に加えて、購買力の低下という問題もあり、現金・預金は「安全資産」とは言い切れなくなります。

リスクの無視は長期では問題

次に、その2の「地政学的リスクは考えても仕方ないので無視する」という考え方ですが、さすがに、これはリスクを完全に無視するということではありません。地政学的リスクが差し迫ってくれば、もちろん用心をします。ただ、地政学的リスクの議論が収束すれば、しばらくはこのリスクは投資の際の検討対象から外すということです。

これは現実的なアプローチであり、投資家の多くはこの考え方ではないでしょうか。地政学的リスクが現実化しそうになれば利益の確定売りを出す一方、地政学的リスクが後退すれば押し目買いを再開するというスタンスです。

平時が続くのならば、これが基本的な投資方法です。しかし、地政学的リスク、ないしはブラック・スワンの影は常に差し込んでいます。そのため、投資が長期になれば、このリスクが現実のものとなるケースを覚悟しなければなりません。過去の戦争の歴史がそれを教えてくれています。

ブラック・スワンには株式で対処

実は、私は、地政学的リスクやブラック・スワンに関しては、その3「不測の事態に備えながらも、投資を続ける」というスタンスに注目しています。とりわけ、長期の投資で有効でしょう。

経済学の研究によれば、1900年から2000年の期間について、米国の株式のリターンは、物価調整後で、年率6.9%でした。標準偏差は20.4%でしたので、大きな落ち込みの年もありましたが、長期で株式投資を続けていれば、年率で約7%のリターンを得たことになります。

ところで、72の法則があります。72を金利で割れば、資金が2倍になるおよその期間が分かるという法則です(複利計算の答えに近似します)。

例えば、金利(リターン)が3%の資産に投資すれば、72÷5(%)=14.4(年)ですから、約14年で、投資した資金が2倍になります。

過去の米国株式のように約7%のリターンの資産に投資すれば、10年強の期間(≒72÷7%)で、資金が倍になるということです。しかも、この約7%は実質値であり、平均3.2%だったインフレ率を控除していることを考えると、米国株式の名目リターンは10%を超えていたことになります。

1900年から2000年の時期は、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そしてベトナム戦争など、まさに地政学的リスクが現実化した時代でした。その間に、実質年率7%のリターンをあげてきた米国株式は、長期の投資ならば、魅力的な投資対象だったと言えます。

なお、この間に、長期国債への投資リターンは実質(インフレ調整後)で年率1.8%であり、株式に比較すると、見劣りします。72の法則だと、年率1.8%ならば、資産が2倍になるまでに、40年(=72÷1.8)かかります。

一方、日本では、1900年~2000年までの期間の国債投資の実質リターンは、年率でマイナス1.6%だったそうです。この間のインフレ率は、平均で7.7%だったことが響きました。とりわけ、戦後の物価上昇は激しく、1947年(昭和22年)のインフレ率は125%との記録もあります。お金を持っていても、食糧は買えない。箪笥から高価な反物を出して、それと食料と交換したとの話を昔は聞かされました。お金の購買力が低下したのです。

したがって、地政学的リスクないしはブラック・スワンに対して、国債だから安全というわけではありません。元本は帰ってきても、物価が上がれば、その償還金の購買力は弱くなります(モノが買えなくなります)。現金・預金も、このことでは同じです。

念のためですが、このような事態がすぐに起きると言っているのではありません。しかし、見えない危険性が存在しており、長期の投資の中では顕在化する可能性があるということです。

リスクは、「前例のある未知」であり、ブラック・スワンは「前例のない未知」です。前例があれば、どの程度の割合で発生するかの目安が立ちます。すなわち、確率で測れるということです。これが本来のリスクです。ブラック・スワンは、前例がなく、その存在さえ気が付かない危険性であるために、確率としては限りなくゼロに近づきます。そして、地政学的リスクも「リスク」とは呼ぶものの、実質的にはブラック・スワンに近い存在です。

しかし、日本でも株式は健闘してきました。苦難の時があり、国債さえもマイナスリターンとなった時期がありましたが、この間の日本の株式のリターンは実質5.0%のプラスでした。

実は、世界の先進国市場では、1900年~2000年の時期のリターンは、長期国債についてはまちまち(プラスリターンの国もあればマイナスリターンの国もある)だったのですが、株式についてはいずれもプラスリターンでした。したがって、未知のリスクに対しても、株式投資は頑強だったということになります。

そして、もう一つの事実は、戦火にあった国よりも、それを免れた国のパフォーマンスが良かったということです。その典型は、米国やカナダ、オーストラリアでした。

ここから言える地政学的リスクへの対策は、長期の投資と分散投資を行うということです。とりわけ、海外株式に分散投資をすることは、過去の例を見ると、長期的にはリスクを抑えながら、資産を形成する有力な方法です。

投資の徒然―AIはブラック・スワン?

2016年3月、囲碁の世界チャンピオンが、コンピューターに負けたとのニュースが流れました。この時分、技術者の多くは、AIが人間に勝つにはあと10年はかかると考えていたそうです。それだけに、この展開は、技術者だけでなく一般人にとっても、思いもよらない事件でした。

そのインパクトは非常に大きく、世界は一気にAIブームになりました。AIで何ができるかという議論を超えて、将来はどの仕事が残るのかという議論にまで発展しています。

ブラック・スワンは、「実現する可能性は極めて低いが、起きれば大きな衝撃を与える事象」でした。昨年のAIの登場は、まさに、このブラック・スワンの定義を満たすものです。すなわち、真のブラック・スワンは、トランプ大統領でも、BREXITでも、北朝鮮問題でもなく、AIなのかもしれません。

ただし、本文では、ブラック・スワンは、世界に「グレート・リセッション」という苦難をもたらすものでした。これに対して、AIは賛否両論です。AIは、あらゆる人が豊かに暮らせるユートピアをもたらすという意見があります。一方、著名な科学者ホーキング博士は、AIは人類の終焉を意味するかもしれないと述べています。

AIが良いブラック・スワンなのか、悪いブラック・スワンなのかを判断するには、将来を待たなければなりません。ただ、それはそれほど遠くない将来に分かるでしょう。もっとも、それを判断するのもAIかもしれませんが。

ただ、投資の観点からは、良いか悪いかが分からなくても、リターンを得るにはそこにいなければなりません。逃げていては、チャンスがつかめないからです。

もちろん、分散は必須です。これは、悪いブラック・スワンが来ても、新たなチャンスへの道を用意してくれます。

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