
【新・相場道五十三次 第43回】金利で考える株価/ダボス会議に参加してきました
年初から世界同時株高の状況でしたが、足下ではやや変調ぎみ。その要因の一つとして注目されているのが米国の金利です。米国の2年物国債利回りが30日、約10年ぶりとなる高水準(2.1243%)をつけたことを受けて、同日のNYダウは前日比362ドル安と大幅に下落しました。
一方、10年国債利回りは2.9706%(1月30日)と14年4月以来の高水準ながら、10年4月の水準である4.8%台から見ると、はるかに低い水準です。このような債券の動きは二つの観点から株式相場に影響を与えているようです。
金利が株価に与える直接的な要因
その一つは金利の上昇が直接、投資に与える影響です。まず、金利上昇は企業利益の減少要因です。負債(社債の発行や借り入れ)によって資金を調達している会社は、金利を支払う義務を負っています。このような会社にとって、金利が上がれば金利の支払い額が増加し利益を圧迫しますから、株価に対しても重しになります。
次に、金利が上がれば、ヘッジファンドなどの投機家はポジション整理の売りに追い込まれます。彼らは自己資金で株を買うだけではなく、他人(銀行など)からお金を借り入れて株を買います(たとえば100万円の自己資金をもとに1,000万円を借りて投資する)。この状態は「レバレッジをかけている」と言われます。小さな力で大きなモノを動かすためにレバーを使うように、小さな資金で大きな投資効果を上げるために借り入れを行うことを意味します。
したがって、投機家にとって、少しの金利の上昇でも大きなコスト負担の増加になりますから、買い持ち株式をできるだけ早く売却しようと考えても不思議ではありません。
金利が景気見通し与える影響
一方、長期的な景気見通しを考える際に、金利動向が大いに参考になります。これは金利と株価に関する二つ目の観点です。具体的には長期金利と比較的短い期間の金利を比較することで、将来の景気動向、さらには株価の行方についてのヒントを得ようとするものです。
一般に、満期までの期間が長い債券の金利は、満期までの期間が短い債券の金利よりも高くなります。たとえば、10年物国債利回りは2年物国債利回りよりも高いということです。10年満期で国家にお金を貸す方が、2年だけ貸すよりも高い金利をもらえるのが当然という発想です。これは、「流動性プレミアム」と言われ、元本が戻るまでの時間が長くなればなるほど金利は高くなるという性質です。
ところが、現実には米国の2年物国債利回りが10年物国債利回りにじわじわと近付いています(図1参照)。両国債の利回りの差は、昨年2月2日には1.27%ポイントでしたが、今年1月30日には0.6%ポイントにまで縮まっています。これをどう解釈すればよいのでしょうか?
一つの有力な考え方は、この現象が「景気の先行き見通しに関して慎重な人が多い」ことを示しているというものです。言い換えれば、景気が遠くない将来においてピークを打つとみている人が多いということです。
2年物金利が上昇して10年物金利の水準に近付いているのは、「足下での景気拡大に伴い2年物金利は上昇しているが、数年後に景気は鈍化する」と予想しているため。早晩景気はピークを打ち10年たつまでに金利は低下に転じるとすれば、10年物金利は上がりません。すなわち、債券市場の参加者の長期景気見通しが、債券相場に現れていると解釈するのです。
そうであれば、2年物金利が上がる一方で10年物金利が上がらない状況が続けば、株式市場では売りが出やすくなります。景気が早晩ピークを打つと想定されるからです。
実体経済よりも債券需給の影響大
ただ、2年国債利回りが上昇を続けるとしても、現状では過度に神経質になる必要はないと考えます。というのも、今回の2年国債利回りの急上昇については需給の要因も大きいからです。
背景には昨年末に決まった30年ぶりの大型税制改革があります。これに従い年初からレパトリ減税(企業の海外利益を米国内に還流させる税制)が実施されました。米企業は海外子会社などが保有する資金を国内に戻し、自社株買いやM&Aを活発化させたことが1月の米株式上昇を後押ししました。
ところがこの資金は海外子会社が米国債を売却して得たものです。海外子会社は稼いだ利益を米国債(比較的短い満期の国債)などで運用しており、米国内に送金するためには国債の売却が必要となります。これは2年国債の下落、すなわち2年国債利回りの上昇につながります。
今後も2年国債利回りには、上昇圧力(債券価格の下落圧力)がかかりやすい状況が続きそうです。海外子会社に滞留する利益(資産)は約2兆6,000億ドルにのぼり、少なくともその1割に当たる巨額な資金が米国内に向かっている想定されているからです。その裏側で国債が継続的に売られる(金利が底固く推移する)可能性があります。
しかし、このような形での利回りの上昇は税制改正による技術的な背景によるもので、将来の景気見通しを反映したものではありません。したがって、2年国債利回りの上昇ピッチが10年国債の上昇ピッチより速いとしても、ただちに景気のピークアウトを織り込む動きと決めつける必要はないでしょう。したがって、株式市場でも国債利回りの上昇を警戒し始めましたが、これだけでは株価の長期上昇トレンドがピークを付けたとは言いきれません。
ダボス会議は大きな飲み会
1月23日から26日まで、スイスのスキーリゾートであるダボスにおいて、「世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(通称ダボス会議)」が開催されていました。私もその現場に行ってまいりました。
ダボス会議は「約2500名の選ばれた知識人やジャーナリスト、多国籍企業経営者や国際的な政治指導者などのトップリーダーが一堂に会し、世界が直面する重大な問題について議論する場」と定義されています。
今年の会議がいつも以上に盛り上がったのは、各国の首脳が集合したことです。インドのモディ首相、フランスのマクロン大統領、英国のメイ首相などそうそうたるメンバーが顔をそろえました。しかし、この方々の影が薄くなったのは、トランプ氏が米大統領としては2000年のビル・クリントン氏以来はじめて出席したからです。現地26日午後2時からトランプ大統領が講演を行うということで、世界各国の目がダボスに注がれました。もちろん、地元ダボスにおいても、タクシーの運転手さんから各国からの参加者まで、この話題で盛り上がっていました。
そもそもダボス会議は「グローバリズム」を重視する世界的リーダーが集まる会議。今年の会議のメーンテーマも「分裂した世界で共通の価値を創造する」でした。そのような場所で、トランプ大統領が「アメリカファースト」を主張し、世界のVIPが目指すグローバル社会に対決姿勢を示せば、世界経済のリスクが改めて強まり、市場ではリスク回避のための円買い・ドル売りにつながる可能性もありました。
私はトランプ大統領の講演前日に、ダボス会議に参加しているVIPに「トランプ大統領は何を言うのでしょう?」とうかがってみました。これに対して、みんなニヤニヤと笑うばかり。講演内容は誰もわからない“Nobody knows”の状況でした。
しかし、実際のトランプ講演の内容は良い意味での肩透かし。トランプ大統領いわく・・・
- 「アメリカファーストは米国の孤立を意味しません。米国が成長する時には世界も成長するのです。」
- 「米国はビジネスにオープンであり我々の競争力は再び高まっています。」
- 「米国は互恵的な二国間通商合意について、全ての国と交渉する用意があります。これには極めて重要なTPPも含まれます。」
- 「我々は国民に対して投資しなければなりません。国民が忘れ去られた時、世界は不安定になります。忘れられた国民の声を聴いてそれに答えることによってのみ、国民全員で分かち合える輝かしい未来を創造することができるのです。」
ダボス会議でのトランプ講演は優等生のお答えでした。これまでトランプ大統領が軽視してきた「開かれた経済」や「国際的な協調関係」を重視する姿勢にも見えます。「君子豹変」でしょうか?
一日限りのリップサービスとの見方もあります。ただ、トランプ氏が17年ぶりに米国大統領としてこの会議に出席すると決めたこと自体に意味がありそうです。かたくなな「アメリカファースト」を修正し、グローバル社会に軸足をやや移動した可能性があります。もちろんこれは、唯我独尊の中国との通商交渉を有利に進めるための方便との見方もありますが・・・(29日、中国で米国通の王岐山氏が政権中枢にカムバックすると報道されました。米国との関係改善を意識した人事のようです。早速、ダボス講演の効果が表れたのかもしれません。)
相場の徒然:閑話休題
ダボスには初めて行ったのですが、想像していたよりはるかに小さな町でした。世界のVIPたちが雪で滑りやすい狭い道路を歩いて、朝食会や昼食会、さらに各所で開催されるディベート、夜のパーティーなどをはしごします。ですので、横を歩いているのがECBのドラギ総裁というシーンに出くわすのは普通のことです。おつきの人もつけないのが原則なので、話しかけるのも難しくはありません。
北海道大学のお手伝いをしている筆者も、元一橋大学教授である黒田日銀総裁に、大学の国際競争力の醸成について貴重なご示唆をいただくという僥倖に巡り合えました。
ダボス会議は基本的には世界の課題を解決するために各界のVIPが集まって協議する場ということになっています。しかし、本質は大きな社交場、あるいは飲み会であり、人的ネットワークを作る場という印象を受けました。アルプスのふもとの小さな町に、リーダーたちがお伴を付けずに4日間も閉じ込められていれば、おのずと胸襟を開いて話し親交を深めることができます。そして、この個人的なつながりこそがいずれ世界を動かすカギとなるため、ダボス会議に世界中のVIPが毎年集まるのだと実感しました。
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