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有事の円買いにも賞味期限

有事の円買いにも賞味期限

いま株式市場では、「地政学的リスク」という言葉が飛び交っています。そこで今回は、このリスクについて考えてみます。

地政学的リスクの影響

市場では、「地政学的リスク」という言葉が、連日のように聞かれます。とりわけ、朝鮮半島をめぐる緊迫感は、各種マーケットに影響を及ぼしています。

北朝鮮がICBM(と言われるミサイル)を発射した8月29日には、ドル円相場が前日の109.25円から、一時108.27円まで下落しました(図1参照)。日経平均株価も、前日の終値19449円から、29日には一時19280円まで下落しました(図2参照)。

(図1)ドル円相場下落のイメージ
(図1)日経平均株価下落のイメージ

ただ、この8月のケースでは、これにより悪材料が出尽くしたとして、ドル円相場も株価もすぐに値を戻し、さらに短期的な上昇に転じました。

そして、9月3日(日曜日)に北朝鮮が核実験を行ったケースでも、週明け4日のドルと株価は下落しました。ただ、8月29日とは異なり、ドル安に欧米の株価の下落も加わるなど、その影響は広がっています。

そのため、ここにきて「地政学的リスク」は、一時的に様子を見ればやり過ごせるリスクではなく、どう対応するかを本格的に考えるべきリスクになり始めたようです。

グリーンスパン氏と地政学的リスク

「地政学的リスク(Geopolitical Risk)」は、市場参加者の間では、戦争やテロにより市場が混乱に陥るリスクと考えられています。

もともと地政学は、地理的な条件、文化や宗教など、さまざまな要因が政治や経済など国際関係に与える影響について研究する分野です。地理的な条件では、二つの国が国境で接していることを契機として、軍事的な紛争になるケースです。例えば、中東紛争がその例として挙げられます。

かつて、このような紛争が起きたとき、原油価格が急騰し、また株価は急落しました。中東戦争時の石油ショックです。ということで、地政学的なリスクは、経済のファンダメンタルズや市場の需給要因ではなく、もっぱら軍事的な摩擦や衝突で株式や為替などのマーケットが急落するリスクです。

もっとも、その当時は、地政学的リスクという言葉は使われませんでした。私が始めて「地政学」という言葉を知ったのは、2002年9月24日のFOMC(米国連邦公開市場委員会)の声明文を通してでした。

この時代は、2001年9月11日の世界同時多発テロを受けて、米国のイラク攻撃(実際には2003年3月20日に開始)の可能性がくすぶり続けていました。FOMCの声明文には、「高水準の地政学的リスクが現れているために、生産や雇用の回復の時期や規模について、かなりの不確実性が存在し続けている」と書かれていました。

2002年は、年初から9月のFOMCの前日まで、NYダウは21%下落していました。いわゆる、ベアマーケット(下落相場)です。市場参加者は、「この大幅下落の要因はなんだろうか?」と考えていました。そこに、FRB(米国連邦準備委員会)のグリーンスパンFRB議長が、「地政学的リスク」という言葉を使ったことで、市場参加者はこの言葉に飛びつきました。地政学的リスクが、ベアマーケットを演出していたのだと。

その後、「地政学的リスク」は、本来の意味とはかなり離れているものの、市場参加者が注目する重要なリスクとなり、典型的な相場変動の要因になりました。

有事の円買いとは?

ところで、かつては「有事のドル買い」と言われ、世界で政治的・軍事的な異変が起こると、ドルが買われる(ドル資産に資金が流れる)状況が長らくありました。しかし、いまは「有事の円買い」となっています。朝鮮半島有事の場合にもっとも影響を受ける、日本の通貨である円が買われることに、違和感をおぼえる人は少なくありません。

ただ、最近の朝鮮半島をめぐるニュースを受けて、円高になったのは現実です。そこで、なぜ有事に円を買うのかを考えると、その理由として次の5つが考えられます。

  1. (1)円買い投機
  2. (2)キャリー取引の巻き戻し
  3. (3)日本株の円ヘッジの巻き戻し
  4. (4)本邦機関投資家による外債の換金売り
  5. (5)質への逃避

まず、(1)の「円買い投機」は、「有事には円が買われるから円を買う」という戦法です。理屈や理論ではなく、相場の動きに素直に対応して値ざやを稼ごうとするものです。ただ、このような投機資金は巨大であることから、その影響は大きく、ドル円相場を動かす力があります。個人投資家(多くは投機家とみられている)が主な参加者であるFX市場(外国為替証拠金取引市場)では、2017年3月期の年間取引高は、6,000兆円を超えたと見られています。これは、日本の経済規模(名目GDP)の10倍以上です。

次に、(2)の「キャリー取引の巻き戻し」ですが、この取引は、低い金利で資金を調達して、高い金利で運用して利益を得ようとする取引です。金利の低い円でお金を借りて、それをドルに換えて、より金利の高い外貨で貸し付けて、内外の金利の差で稼ごうとするものです。

例えば、1年債の金利(利回り)は、米国が1.22%であるのに対して、日本はマイナス0.15%です(9月7日現在)。理屈の上では、マイナス金利の日本でお金を借りて、それをドルに換えて、米国で運用すれば利ザヤが取れます。

しかし、マーケットに先行き不透明感が広がると、この取引を解消しよう(巻き戻そう)とする向きもでるでしょう。そもそも、リスクをあまりとらないで内外の利ザヤを稼ごうとする取引ですから、リスクには敏感です。例えば、円高になれば、安くなったドルでは元本を返せなくなります。ですので、キャリー取引を閉じようとして、円の買い戻しが起こるのです。

また、(3)の「日本株の円ヘッジの巻き戻し」は、日本株に投資していた海外投資家が、先行き不透明感により、その株式を売る際に起こります。海外投資家にとっては、日本株の値上がりに期待しながらも、円安になるのは困ります。海外投資家からみれば、円が安くなれば、自分が投資したお金が減少するからです。そのため、日本株に投資するのと同時に、円のヘッジ売りを行い、将来の円安に備えます。すなわち、海外投資家は、当初、「日本株の買い+円売りヘッジ」という取引を行います。

しかし、先行き不透明となると、海外投資家の一部は株式を売ろうとします。この時、円売りヘッジを解消しなければなりません。これは、「円買い」です。すなわち、先行き不透明感から、海外投資家が日本株を売る時、同時に円を買うために、株安と円高が同時に起こります。

この話のややこしいのは、ヘッジの買い戻しにより円が高くなれば、あらためて、円高懸念で株式を売る人が増えることです。そこで、株式を売れば、さらに円が買われるという循環が起こりかねません。

そして、(4)の「本邦機関投資家による外債の換金売り」も、理屈の上では考えられます。邦銀(日本の銀行)の対外投資は4兆ドル弱(約400兆円)に達しています。その背後には、国内の生命保険会社の外債投資があると言われています。しかし、有事になって市場が混乱することを警戒し、生保はその外債を売る可能性があります。そうなると、外債を売って得たドルを円に戻す動きが出ます。このとき、ドルが売られ円が買われるために、円高になるという見方もできます。

最後に(5)の「質への逃避」は、純粋に日本のファンダメンタルズの良さに基づいたものです。とりわけ、日本が世界最大の純債権国(日本は外国との関係で見れば、資金の借り手でえはなく貸し手)です。そこで、いざとなれば、お金の貸し手である日本の通貨(円)が安全ということで、円を買う人が増えるということです。

円買い要因を検討すると・・・

前節で述べた理由により、外国為替市場や株式市場では、「リスク拡大→円高・株安」というステレオタイプの反応があることは確かです。

ただし、列挙した理由のうち、(1)は投機による円買いですから、遠からず、買った円は売られることになります。利益を確定するか、あるいはロスカットをするかの違いはありますが、いずれにしても買った円は売らなければなりません。

また、(2)から(4)は、ポジション整理(持ち高の整理)ですから、いわゆる需給の問題です。ということで、長期的な見通しでドル売り・円買いをしているのではなく、決済のためのドル売り・円買いです。そのため、その売買が一巡すれば、この動きは終息します。言い換えれば、この要因での円高はいずれ収まるということです。

一方、(5)はファンダメンタルズ(日本経済の強さ)に基づくものですから、この観点からの円買いは長期に続くように見えます。ただ、仮に、不測の事態が本当に起こり、ファンダメンタルズが損なわれることがあれば、円買いは続かないはずです。そして、仮に不測の事態が起こらなくても、それが起こる可能性が高いとなれば、投資家はさらなる円買いをちゅうちょするはずです。

世界経済の停滞といった経済面のリスクが強まるとき、まずは投機や需給要因で円高になったのち、日本のファンダメンタルズをよりどころに、さらなる円高が続く可能性が高いでしょう。しかし、日本近辺での地政学的リスクが高まるときには、当初は投機や需給要因で円高になっても、長期的なファンダメンタルズ要因での円買いにはつながりにくいはずです。

「有事の円買い」が言えないとき

このことを、少し理屈っぽく整理してみます。ここでは、為替相場が実質金利の影響を受けるという前提に立ちます。

実質金利は、名目金利(私たちが銀行預金や債券利回りという形で目にする金利)から、インフレ(物価上昇)の影響を取り除いたものです。インフレ率は、高い国、低い国などさまざまですから、それを取り除くことで、二つの国の金利が比較しやすくなります。

実質金利は、次の式で表せます。

実質金利=名目金利-インフレ率・・・①

お金は、金利の低い国から高い国に流れやすので、実質金利が高い国の通貨は買われます。逆に、実質金利が低下すれば、その通貨も安くなる可能性が高いのです。

いま、日本の7月のインフレ率は0.4%(前年比、生鮮食品を除く)でした。この環境で、ドル円の水準は、1ドル=109.22円(9月6日終値)です。ただ、同じ日には108.45円まで円高が進みました。地政学的リスクを理由に、先述のような、投機の円買いやポジションの巻き戻しの円買いが起こったのでしょう。

しかし、本当に、有事ならばどうなるか。考えられる一つのシナリオは、インフレ率の上昇です。これは、日本人が、戦時中に体験した現象です。

そうなると、①の式で、右辺の名目金利が変わらなければ、インフレ率が上昇する分だけ、左辺の実質金利は低下します。それは、円相場の低下につながるでしょう。

ということで、ファンダメンタルズが変われば、いつも「有事の円買い」とは言い切れないのです。「有事の円買い」にも、賞味期限はありそうです。

相場の徒然―半島有事と格付け

では、朝鮮半島にかかわる地政学的リスクはどれほどなのか。

世界的な格付け機関のムーディーズは9月7日、「軍事衝突の可能性は低い」と指摘しました。韓国、米国や他のアジアの国を巻き込む、全面的な軍事衝突の可能性は、「低い」ままだと判断しています。ただし、ムーディーズはこれまで、その可能性は「非常に低い」としていましたから、リスク度合いを若干引き上げた格好です。

なお、ムーディーズは二つのシナリオを示しています。一つは、数週間程度の軍事衝突であり、もう一つは長期の軍事衝突です。前者では、韓国経済にも悪影響はあるものの、それは限定的であろうと見込んでいます。仮に、それにより韓国で資金の国外流出が起こっても、十分な外貨準備があるためです。一方、後者の場合、経済的にも財政的にも多大なコストが発生し、同国の国債等には格下げの圧力がかかると予想しています。

ただし、繰り返しになりますが、ムーディーズはそもそも、このようなシナリオになる可能性は低いと指摘しています。ただ、長期で見れば、さまざまなリスクにどのように対応するかは、考えておく必要があります。このあたりについて、次回のコラムで検討してみます。

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