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【新・相場道五十三次 第11回】PBRとPERの実践的な使い方

廣重勝彦
廣重勝彦

前回はPERを検討しました。今回は、PBRを検証し、その応用方法を探っていきます。そのうえで、改めてPERについても、実践的な使い方をご紹介します。

PBRと解散価値

PBR(株価純資産倍率)の復習です。PBRは、株価を一株当たり純資産で割って求めます。

PBR=株価/一株当たり純資産=時価総額/純資産

純資産は、総資産(総資本)から負債を引いて求めます。
純資産=総資産-負債=資本
厳密な議論をしなければ、純資産は自己資本や株主資本と同じです。

純資産は、会社が銀行などから借り入れたお金(負債)を返済した後に、会社に残る財産です。そのため、純資産は会社の「解散価値」ともいわれます。したがって、PBRが1倍ならば、「株価=一株当たり純資産」ですから、株価は解散価値に等しいことになります。この解釈のもとでは、PBRが1倍を下回れば、株価は解散価値よりも低いことになります。すなわち、「PBR<1」ならば、株価は割安ということになります。

PBRを詳しく調べる

そこで、実際に、「PBR<1」が割安さを示しているのかを確認してみます。

東証株価指数(TOPIX)採用銘柄のうち、時価総額の大きい1000銘柄に絞り、このうちPBRの高い方から100銘柄を選んで投資するポートフォリオをつくります。これを「高PBRポートフォリオ」と呼ぶことにします。各銘柄の買い付け金額は同じです。毎年の年末時点で、最もPBRが高い100銘柄のポートフォリオになるように、銘柄を入れ替えます。これを2002年から2016年までの過去15年間投資したシミュレーションの結果が、表の高PBRポートフォリオです。

(図1)PBRの効果

つぎに、「低PERポートフォリオ」を作ります。これは、高PERポートフォリオと同じ方法によりますが、違いはPBRの低い方から100銘柄を選ぶことです。そして、過去15年間のデータを使って、シミュレーションしました。その結果は、表の低PBRポートフォリオです。

両者の結果を比較すると、その差の大きさに驚かされます。15年間の「トータルリターン(株価の値上がりと配当の累積)」は、高PBRポートフォリオがわずか12.9%であったに対して、低PBRポートフォリオは831.7%と65倍。低PBRポートフォリオの運用成績が、高PBRポートフォリオのそれを圧倒しています。また、「平均リターン」も、高PBRポートフォリオが3.4%に対して、低PBRポートフォリオは19.3%です。

表の「超過リターン」という項目は、TOPIXのリターンを上回る部分を示していますが、低PBRポートフォリオでは11.6%に達します。低PBRポートフォリオは、市場(TOPIX)と比較しても、高いリターンをたたき出していることが分かります。

これに対して、高PBRポートフォリオでは-3.20%と、TOPIXを下回るリターンです。すなわち、高PBRポートフォリオは、市場平均にも満たないパフォーマンスと言えます。なお、ポートフォリオのリスクを示す標準偏差は、低PBRポートフォリオが19.9であるのに対して、高PBRポートフォリオは19.2とほぼ同じ水準です。

ただ、リターンを1単位得るために、どれだけリスクを取らなければならないかを示す標準偏差を平均リターンで割ることで求める変動係数を見ると、高PBRポートフォリオが5.57であるのに対して、低PBRポートフォリオでは1.03にとどまります。すなわち、高PBRは低PBRよりもはるかに高いリスクを負担しているということです。したがって、リスクとリターンの関係でも、高PBRポートフォリオに比較し、低PBRポートフォリオは相当有利です。

PBRは割高・割安を示す

つぎに、PBRが中位クラスの銘柄(PBRが平均的な銘柄)のパフォーマンス(成績)も検証しました。先述の1000銘柄のうち、中位の50%(全体の25%より大きく75%よりも小さい)の株式(約500銘柄)を取り上げ、同様のシミュレーションを行った結果を「中PBRポートフォリオ」として表に掲載しました。

中PBRポートフォリオの投資成績は、次の通り、高PBRポートフォリオと低PBRポートフォリオの中間に位置しています。

  • トータルリターン:低PBRポートフォリオ>中PBRポートフォリオ>高PBRポートフォリオ
  • 平均リターン:低PBRポートフォリオ>中PBRポートフォリオ>高PBRポートフォリオ

これを見ると、PBRはやはり長期的に投資のパフォーマンスに影響すると考えられ、端的に低PBRが有利と言えます。

なお、中PBRポートフォリオでも、3.26%の超過リターンが発生しています。先述の時価総額の大きい1000銘柄のうち、突出して低いPBRの株式でなくても、市場平均を上回るリターンだったということです。これに対して、高PBRポートフォリオでは、市場平均を下回っています。したがって、PBRが高くないことは、投資成績を向上させる要因になると言えます。

以上をまとめると、PBRについては、次のような仮説が立てられます。

  • 低PERは、長期的に見れば、市場平均を上回る成績をもたらす。
  • 低PERは、負担するリスクを軽減する
  • 同じような銘柄であれば、低PERが有利
  • 高PBRは、長期で見れば、リターンとリスクの両面で、市場平均よりも不利である

銘柄比較ならPBR

ところで、株価収益率(PER)は、すなわち会社の価値と株価の関係を表していると言われます。この考え方をそのまま反映して、PERが低い銘柄の方が、PERが高い銘柄よりも株価が割安であり、その結果、低PER株式は高PER株式よりも投資成績が良くなるというイメージがあります。

しかし、前回のコラムの検討で、PERが低い銘柄群に投資することが、PERが高い銘柄群に投資するよりも良い成績をもたらすとは言えないと指摘しました。ありていに言えば、PERが低い銘柄が有利とはいえないし、PERが高い銘柄が不利とは言えないということです。

ちなみに、PERが50倍を超える銘柄のポートフォリオを作ってシミュレーションしてみても、PERが50倍以下のポートフォリオと、パフォーマンスに大きな違いはありません。したがって、PERの数値の大小で、株価の割安・割高を測ることは難しそうです。

先述の通り、数値の大小で株価の割安・割高を考えるなら、PBRを用いるべきです。

将来と現在の株価比較ならPER

実は、PERを株価の割安・割高を探るために使うのなら、PERの数値の大小に注目するのではなく、PERが将来の株価を想定するための指標(物差し)になることに注目すべきです。これを具体的に見ていきます。例えば、一株当たり利益(EPS)が100円の会社の株価が1500円なら、PERは15倍(=1500円÷100円)です。

そこで、この会社が来期に10%増益になると予想されるとしたら、その株価はいくらが妥当か?この問題を解くために、PERが使えます。まず、利益が10%増えるのですから、来期のEPSは110円(=100円×110%)になります。

PER=株価÷EPS

ですから、式を変換すると、

PER×EPS=株価・・・(式1)

これに数値を当てはめると、

15倍×110円=1650円

したがって、10%増益になれば、来季の株価は1650円になると予想されます。

増益予想によるPER水準の変動を織り込む

ところが、10%増益の予想が広まるならば、この会社の人気は高まるはずです。そうなると、投資家の買いが活発化し、PERの水準が上昇する可能性が高いため、PERは今期の15倍に対して、来季は16倍まで上昇すると想定します。

そうすると、(式1)を使って、

16倍×110円=1760円

ということで、この株式は来季、1760円まで上昇する可能性があると判断できます。

もちろん、増益予想が市場で広まれば、株価は上昇します。それでも、1760円という想定株価(目標株価)に対して、現在価格が下回っていれば、その株式は割安ということになります。このように、PERは、将来株価に対する現在株価の割安・割高を測る際に、威力を発揮します。

相場の徒然:“織り込んだ・織り込んでない”

わたしがむかし、証券会社に入って株式取引をはじめたころ、すごく疑問に思ったことがありました。ある会社について、良いニュースが新聞に出ているにもかかわらず、株価が下落することです。本来、会社にとって良いニュースは、株式の上昇要因のはず。しかし、現実には、株価が下がります。それにとどまらず、良いニュースが下落の要因になるケースもあります。例えば、会社が好決算を発表したのに、株価がそれを境に下落する場合です。

これを見て、初心者の人は、やっぱり株式相場は分からない。なんで株価が上がるのか下がるのかが理解できないと思われるかもしれません。私もそうでした。

これに対して、株式取引のベテランは、「好材料が相場に織り込まれていたからだ」と教えてくれるはずです。決算発表前に、良い数字が出ると予想して、株価はすでに上昇していたということです。そのうえで、予想通りの数字が出たら、そこで好材料が「出尽くし」となったから、事前に買っていた投資家が売りに回り、株価が下がったと説明することでしょう。

株式相場は、短期で見れば、投資家同士の読み合いです。企業決算の数字ならば、市場参加者のみんながどの水準を予想しているかを読むことです。このみんなが予想している数値を、「市場コンセンサス(合意)」といいます。

ですので、決算発表で示された前期末の売上高や利益が、コンセンサスを下回っていたら、たとえそれがその前の年より大きく伸びていても、株価は売られます。「前々期の利益<前期の利益」であっても、「前期の利益<コンセンサス」であれば、株価は下げても不思議ではありません。

このコンセンサスは、通常は、会社が公表している業績予想や、アナリスト予想などをもとに形成されます。短期的な投資の視点では、利益をあげるためには、コンセンサスを読むことが大事です。ただし、これをどう読むかに公式はありません。投資家の経験値や勘(カン)が働く場面です。

もっとも、コンセンサスの当たりはずれで損する得するの議論は、投資というより投機に近いでしょう。逆に、長期の投資という観点からは、業績予想と同じくらい過去の業績が大事です。

発表された企業業績が、過去から続く増益トレンドを維持しているのなら、コンセンサス通りかどうかは関係ないこと。むしろ、市場の過剰な期待が裏切られたとして、短期投資の人が株式を売り込むときが、長期的な買いのチャンスになるケースは多いのです。

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