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【新・相場道五十三次 第13回】鏡とアンテナ

【新・相場道五十三次 第13回】鏡とアンテナ

廣重勝彦
廣重勝彦

今回は、株価と時価総額について、ニッチな話をしてみます。同じように見えて、少し違う。そこに投資のヒントがありそうです。

株価は鏡

相場格言には「株価は経済を映す鏡」、「株価は会社の先行きを見通す鏡」というものがあります。鏡で自分の顔を見れば体調の良しあしが分かるように、株価を見ればその会社の状況や先行きが見えてくるということです。たしかに、株価が高ければ会社の業績は好調であり、株価が軟調ならば会社は課題を抱えているとみることは、当たり前のようですが妥当な評価です。

その鏡も、実際の市場を映そうとすると、簡単なことではありません。例えば、2017年3月28日現在、ソニー(6758)の株価が3605円なのに対して、パナソニック(6752)の株価は1232.0円でした。ソニーの株価はパナソニックのほぼ3倍です(3605.0円÷1232.0円=2.93)。一方、ソニーの予想予想一株当たり利益(EPS)が20.6円であるのに対して、パナソニックの予想EPSは55.7円(会社四季報17年春号より。以下同様)です。予想EPSで、ソニーはパナソニックの約3分の1にすぎません。パナソニックの3分の1の利益しかないソニーの株価が、パナソニックの株価の3倍です。なぜでしょうか。

株価という鏡が正しいのならば、次のような解釈ができます。すなわち、ソニーの株価には、EPSなどの財務データでは表現できないブランド力や、開発力、そして投資家の期待などが映しだされているということです。

株式の価値はまた別

ただ、ソニーはパナソニックの3倍の価値があるわけではありません。ここで、会社の価値をどうとらえるかについては、次の考え方があります(どうしてそうなるのかは、また別の機会に議論します)。

企業価値=株式時価総額+有利子負債

このうち、(株式)時価総額は、市場ですべての株式を買うために必要な金額で、次の式で求められます。

時価総額 = 株価 × 発行済み株式数

17年3月28日現在で、ソニーの時価総額は4兆5,552億円、またパナソニックの時価総額は3兆221億円でした。有利子負債は、ソニーが1兆2385億円、パナソニックが1兆1,248億円でした(会社四季報17年春号による)。したがって、

  • ソニーの企業価値…4兆5,552億円+1兆2385億円=5兆7,937億円
  • パナソニックの企業価値…3兆221億円+1兆1,248億円=4兆1,469億円

企業価値でみると、ソニーはパナソニックの1.4倍(=5兆7,937億円÷4兆1,469億円)です。

株価と企業価値の違いにはさまざまな理由がありますが、その一つに発行済み株式数がソニーの1,263,377千株に対して、パナソニックの発行済み株式数が2,453,053千株と大きな違いがあることは無視できません。すなわち、株価が会社への期待や人気などを示していると考えられる一方、発行済み株式数は会社の規模を示していると言えます。その両方を掛け合わせた時価総額こそ、会社の価値を決める要因です。

株価か株数か

投資家は一般に、株価の水準や株価の上下に関心があります。株式を取得する動機が、株式の値上がり益や配当であれば、いくらで買っていくらで売るかが大事ですから、株価の動きに注目して当然です。

一方、企業の合併・買収(M&A)を含めて、企業の支配に関心がある向きは、株価と同時に、発行済み株式数にも関心があります。どれだけの株式を買えば、企業の経営に影響を与えられるのか、あるいは経営権を握れるのかを考える場合、株式の数が問題になります。この人たちにとっては、株価と株数を掛けた時価総額が大事だということになります。

さらに、経営(陣)から見れば、株価の動向は、市場が自分たちをどのように評価しているかを知るうえで大事です。株価が上昇していれば、市場(投資家、株主)が経営を支持しているということですし、逆に大きく下落していれば経営に対して不信感を抱いていると判断されるからです。同時に、経営は株式の保有者にも注目します。特定の株主に株式が集まると、経営に影響を与えるからです。その結果、経営は株価×株数の時価総額に注目することになります。

このように会社にはさまざまな利害関係者がいます。そのため、会社の状況を知るためには、株価だけではなく、時価総額の水準や推移にも注目しましょう。例えば、時価総額が拡大していることは、投資家や利害関係者の資金がその会社に集まっていることであり、会社の評価が現実に高まっていることを意味します。

一方、時価総額が小さい会社は、M&Aの対象になりやすいという意味で注目されます。しかし、時価総額が減少する会社は、投資資金が逃げている可能性があり、注意しなければなりません。なお、時価総額が10億円未満となった場合、9か月以内に10億円以上に回復できないと、上場廃止となる可能性があります。

株価と時価総額の使い分け

ところで、相場全体を見る指標である株価指数においても、株価と時価総額が意識されています。

例えば、米国には、ニューヨーク・ダウ(NYダウ)と、スタンダード・アンド・プアーズ500指数(S&P500)という代表的な株価指数があります。また、日本でも、日経平均株価(日経平均)と東証株価指数(TOPIX)という二つの株価指数が存在します。このうち、NYダウと日経平均は、“株価”の動きを示す指標です。これに対して、S&P500とTOPIXは“時価総額”の動きを示す指標です。

NYダウと日経平均は、株価の単純平均であり、株数は考慮されていません。一方、S&P500とTOPIXは、株式市場の時価総額を指数化したものです。

例えば、日経平均株価は、東証の主要な225銘柄の単純平均です。日経平均に採用されている225銘柄をすべて足して、それを除数で割って求めます。除数という特別な数を使いますが、原理としては単純平均です。なお、除数は、日本経済新聞に日々掲載されています。

そして、東証1部に上場している銘柄に株数を掛けて、それをすべて加えたものが、東証1部の時価総額です。1968年4月1日の時価総額をを100として、現在はいくらになっているかを示したものがTOPIXです。したがって、日経平均は「株価」、そしてTOPIXは「時価総額」と言えます。

一般の投資家は日経平均の上下で相場全体の動きをとらえていますが、機関投資家はTOPIXで相場の動きを評価します。株式市場に大規模な資金を投資している機関投資家は、市場価格の平均値ではなく、市場全体の価値が上がるか下がるかに注目しているからです。

(図1)NTレシオ

なお、前回のコラムでご説明した通り、日経平均とTOPIXの関係を示す指標が日経平均株価を東証株価指数(TOPIX)で割ることで求められるNTレシオです。過去20年の平均は11.22倍でしたが、3月29日には14.47倍にまで上昇しています(図1参照)。これは、株式市場の規模の拡大よりも、平均株価の上昇が進んでいることが見て取れます。このことは、投資の先行きを見るうえで、注目していきたい材料です。

巨大な時価総額

さて、ここで、時価総額を通して、米国の主力銘柄を見ましょう。米IT企業の巨人である5社、すなわちアルファベット(Googleの親会社)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、マイクロソフト(Microsoft)、そしてアマゾン(Amazon)についてみます。これらは、頭文字をとってGAFMA(ガフマ)とも呼ばれます。2月末現在の時価総額は、表の通りです(図2参照)。

(図2)GAFMAの時価総額

世界最大の時価総額を持つアップルは7,187億ドル(約79.8兆円)と世界最大の時価総額を誇り、わずか5年前に上場したフェイスブックはまたたくまに世界有数の時価総額を持つ巨大企業に成長しています。

驚くべきは、この5社の時価総額が2兆5,842億ドル(287兆円)ということ。この5社だけで、東証一部全上場企業の時価総額566兆円の約半分です。GAFMAは個別企業ですが、それだけ世界の市場に影響を与える可能性は相当高いでしょう。

株価と時価総額のずれに注目する

次に、フェイスブックが上場したあとの各社の株価の動きはグラフの通りです(図3参照)。アップルを除く4社の時価総額は着実に増加しています。実はアップルも、株価は足元で過去最高を更新していますが、時価総額でみれば、2017年5月がピークで、その後はこれを超えておりません。その背景には、アップルは自社株買いを活発化していることがあります。

(図3)GAFMAの時価総額の推移

市場の一般的な見方によれば、自社株買いで市場の株数が減れば一株当たり利益(EPS)が高くなるので、株価は上昇することになります。一方、自社株買いにより資金が社外に流出しますから、理論的には時価総額は減少します。この結果生まれているアップルの株価と時価総額のずれは、今後どのように解消されるのか。これは、株式の先行きを考えるうえで注目される材料です。

株価は会社の先行きを見通す鏡ですが、時価総額はお金の流れをつかむアンテナです。普段は株価に注目していても、折に触れて時価総額に注目すると、その会社の業界での位置や、国際的な競争力なども見えてくるはずです。

このように、「時価総額が会社の実力である」と言えるのではないでしょうか。このような考え方をするようになったのは、わたしが一時、証券会社の公開引き受け部門にいたときです。公開引き受けというのは、ベンチャー企業などの未上場企業が、証券取引所に上場することをお手伝いする仕事です。

投資の徒然:会社の実力

企業は、上場することでさまざまなメリットがあります。まず、会社が一段と成長するために必要な資金を、株式の発行(公募増資)により、低コストで大規模に調達することができます。また、上場企業という高いステータスを得ることで、お客様からの信頼感が高まり、売上高の増加が望めるでしょう。また、銀行などからの融資も受けやすくなりますし、優秀な人材を確保することも容易になります。そして、創業者グループは、創業以来保有し続けてきた株式を株式市場で売却して、投資資金を回収し、キャピタルゲインを得ることができます。

公開会社になると情報開示(ディスクロージャー)の義務が大きくなると同時に、社会的な責任も強まります。また、新しい株主が一気に増加しますから、投資家向け情報提供(IR)などにも十分配慮しなければなりません。会社から見れば、新たなコスト負担になることから、それをまかない、さらに株主の期待に応えるだけの利益をあげていかなければなりません。これは、経営者にとってはかなりのプレッシャーになるでしょう。

公開引き受け部門は、このようなさまざまなメリット・デメリットを吟味しながら、会社に対して株式公開(上場)のプランを提案していきます。そのなかで、株式市場を通じた資金調達(増資など)をどのようにするかは、「資本政策」と言われます。

実は、資本政策について議論するとき、株価がいくらになるのかに関心を持たれる会社関係者は少なくありません。自分が保有している株式が、いくらで売れるかが重要だからでしょう。しかし、会社にとって重要なことは、会社が必要な成長資金をきちんと確保できるかどうかです。

会社が健全に発展するための資金をきちんと確保するためには、お客様に強く支持される商品やサービスを将来にわたって提供できる体制を作り、また株主からも安心して投資してもらえる内部管理体制を構築し、そして健全で合理的な経営がなされていることが必要です。言い換えれば、どれだけ資金を調達できるかは、その会社の真の実力次第ということです。

株価は小手先のテクニックでも調整できますが、時価総額は市場が下す会社の評価です。だからこそ、時価総額が会社の実力なのです。一時的に株価を高くすることではなく、時価総額を大きくすることが、会社の目的であり、経営者の使命ではないでしょうか。そして、時価総額が堅調に増加する企業は、長期の投資に適する会社と言えるでしょう。

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