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景気サイクルを使った投資

景気サイクルを使った投資

景気と需給ギャップを考える

過去2回にわたり、景気の状況が、株価の動きに影響を与えるということをお話しました。 復習ですが、理論的には、実際の成長率(GDP成長率)が潜在成長率を上回っている状況が、景気が良いと見る場面です。逆に、実際の成長率が潜在成長率を下回っている状況が、景気が悪い時です(図1参照)。

図1:景気の動き

この潜在成長率は、データには現れません。労働力や設備投資などにより、研究機関等が推計する理論的な数字です。例えば、今月発表されたIMF(国際通貨基金)の経済予測では、日本の経済成長(2017-2022年)の平均は0.7%です。日本経済が実力通りにモノを製造販売しサービスを提供すれば、GDPは年率で0.7%の拡大が予想されるということです。なお、日本銀行が4月27日に公表した「展望レポート」では、潜在成長率の推計値は「0%台後半」とされています。これは、IMFの見通しと同様の水準です。

一方、新聞等で発表される経済成長率は、現実にGDPがどれだけ拡大したかを示したものです。当然ながら、理論値の潜在成長率と実際の成長率には差が出ます。これは、「需給ギャップ(GDPギャップ)」とも呼ばれます。この需給ギャップは拡大したり、縮小したり、あるいはマイナスの数字になったり、プラスの数字になったりすることで、景気の状況を表します。

実際の成長率が潜在成長率を超えているから景気が良いということにとどまらず、この需給ギャップが拡大する方向にあるのか、あるいは需給ギャップが縮小する方向にあるのかで、景気の判断は変わってきます。

景気がどのように循環するか

このことは、次の図2で直観的に理解できます。

図2:景気と株価

この図は、景気が良くなってピークを打ち、その後悪くなりますが、底入れして再び回復に向かうことを示しています。

景気は、一番悪い状況が「谷」と言われ、その後「回復」し、「好況」となり、やがて景気はピークである「山」を付けます。そこから「後退」に陥り、不況となり再び「谷」を付けます。図で見ると、Aが回復、Bが山、Cが後退、Dが不況、Eが谷、そしてFが回復です。

このようなサイクルは、「景気の波」あるいは「景気循環(景気サイクル;Business cycle)」と呼ばれます。日本経済においては、一つの循環は、約3年~約8年かかりました。

景気の状況と株価の反応

さて、景気と株式投資の関係について、一般的な考え方は、景気が良い時には株式を買い、景気が悪い時には株を売るというものです。しかし、現実の相場は、そこまでシンプルではありません。相場は、経済データだけでなく、景気の先行き見通しにも大きく影響を受けるからです。たとえ今の景気が良くても、今後は景気が悪くなるという見通しが強まれば、株価は下落します。あるいは、現在の景気は悪くても、今後景気は良くなると見れば、株価は上昇します。

このことを整理しますと次の図3のようになります。なお、左端のA~Fは、図2の記号を示しています。

図3:景気と株価の関係

記号Aの局面は好況期です。ただし、この時期は前後2つに分かれます(これは、筆者の見方です)。前半は景気拡大の時期であり、後半は景気が伸び悩んでいく時期です。前者の拡大期は、経済成長率が加速する時です。株価は、このような景気拡大の後押しを受けて、順調に上昇します。ただ、「伸び悩み期」になると、発表される経済指標は良いのですが、事前のエコノミスト予想を下回ることが多くなります。これを受けて、株価は次第に神経質な値動きになり、さらに天井を打つ可能性が高まります。

そして、景気は山を付けます。この局面では、経済指標は高水準ながら、経済面での問題(過度な物価上昇や人手不足、地価の上昇など)が目立ちます。多くの場合、株価はすでに下落トレンドに入っています。

景気後退の局面では、経済指標で景気の弱さが明らかになります。株式市場では、戻り売り圧力が強まりますから、好材料が出るときが、逆に売りのタイミングになります。

そして、不況になると、経済指標の悪化を受けて、株価は下落を続けます。しかし、不況の後半には、新聞等には景気の悪化を指摘する記事が目立ちますが、株価は下げ渋ります。

そして、景気が谷を迎えた時には、株価はすでに底入れから反発に転じています。投資家は、下げ過ぎを警戒して売りを手控え、また企業価値から見て安すぎる株式に買いを入れ始めるからです。その後、景気回復の局面になると、経済指標の水準は低いのですが、エコノミストの予想を上回るようになります。これを受けて株価の上昇は次第に加速していきます。

現実に景気と株価はどうだったか

最後に、実際の景気と株価の関係を見てみましょう。ここでは、バブル崩壊以降(1990年以降)の景気循環と実際の株価の動きを図4にまとめました。

今日までに、5つの山と5つの谷があったのですが、そのうち7回で、株価の天上と底が景気の山谷に先行しました。また、第11循環の山と、第14循環の谷では、株価の天上と底は、それぞれほぼ同時期でした。

図4:景気の天底と株価の天底

ただ、第13循環の谷では、株価の底入れは大きく遅行していますが、これはイラク戦争や不良債権処理の問題などが影響したと見られます。この時期、景気は回復に転じていましたが、イラク問題の不透明感で米国株式が下落していたことや、日本の金融機関や事業会社がバランスシートの改善のために持ち合い株式の売却などを続けていたために、株価の回復が遅れたと見られます。

したがって、株価はおおむね景気に先行していると言えるでしょう。しかし、そうであれば、景気を見てもそれは過去の株価を説明するにすぎないことになり、景気を株式投資の参考にできないのではないかと考える向きもあるでしょう。

しかし、そうではありません。ここで重要なことは、先ほど示したように、景気が循環することを理解しておくことです。景気は、回復・好況・後退・不況の動きを続けます。したがって、景気の過去からの動きを見れば、つぎに景気がどのような局面になっていくかを見極めることができます。これにより、株価が織り込んでいる時期より、さらに先の時期について想定できるということです。

新聞やネットに出ているニュース等をチェックして、いまの景気は図2のどのあたりにあるかを考えてください。それだけでも、株を買うタイミングなのか、あるいは手放すタイミングが近いのかを見極める有力な手がかりになるはずです。

相場の徒然

持ち合い解消の売り

むかし、ある証券会社の売買執行部門にいたときのこと。たしか、2001年ころだったと記憶しています。ある大手メーカーさんが、財務体質の健全化のために持ち合い株式の解消をしたいとのお話がありました。不良債権問題を背景に、銀行に頼るだけではリスクがあるとして、事業会社には資金は自分で調達していこうという機運がありました。同時に、事業環境も厳しいことで、古くから保有している簿価の低い株式を売却して利益を出したいということだったのでしょう。

そこで、その保有株式のリストを見ました。営業担当者によれば、そのメーカーは、できればその株式の大半を売りたい意向とのこと。当時の私の仕事は、それを市場につないで売却するか、あるいは流動性の低い銘柄については、いったん買い取って自己ポジションにして、その後売却するといったプランを立て、それをそれぞれの担当部署と協力して、実行することでした。

株数が大きいことは問題ありません。日常的に、数百万株を自己ポジションとして保有することもありましたから。もちろん、その時はそのリスクに見合う合理的な価格で買い取ることになります。

しかし、この時に強く印象に残ったのは、その規模が巨大だったからです。これを見て私の頭をよぎったことは、その売買をどうやったらうまく執行できるかではありませんでした。「メーカーの一社だけでもこれだけの持ち合い株式があり、それをいま売ろうとしている。他のメーカーも同じはず。だったら、どれほどの売りがこれから市場に出てくるのか」という心配でした。相場の先行きを考えると、暗い気持ちになったことを覚えています。

このメーカーは結局、株式を売却することはありませんでした。しかし、株式相場全体は、下落基調を免れませんでした。

買わない理由

図5:GDPと株価

景気は2002年1月に谷を付けたのに、株価が底入れしたのは、東証株価指数(TOPIX)が2003年3月11日(770ポイント)、また日経平均株価は2003年4月28日(7607円)でした。

2003年1-3月当時を振り返れば、米国株式も下落基調にありました。2000年のITバブルの崩壊、2001年9月の米同時多発テロや2003年3月のイラク戦争など前例のない事態を受けて、投資家の中では警戒感が強まっていました。

そして、国内では、金融機関を中心に不良債権の処理がすすむ、すなわち資産の売却が続いていました。

事後的に見れば、この時期の株式は、ファンダメンタルズ(経済的な裏付け)からかい離し、売られすぎていたということになります。しかし、渦中にいれば、いま見えているファンダメンタルズへの信頼よりも、将来への不安感の方が勝ったのは仕方がないとも言えます。景気は回復していても、株式を買わない理由に事欠かなかったということです。

やはり景気は投資に有効

それでも、この時が、投資の重要なタイミングだったことも事実です。もちろん、日経平均株価の底値である7607円のときに、株式を買うことは難しかったでしょう。どこが株価の底だったかは、のちに分かることだからです(事後的にしかわからないからです)。

しかし、2003年5月1日に、米国のブッシュ大統領(当時)が大規模戦闘終結宣言を行い、イラク戦争への懸念は後退しました。また、2003年5月17日に、政府はりそな銀行への公的資本の注入が決めたことで、不良債権問題も峠を越えたことが分かったはずです(なお、りそな銀行などを傘下に持つりそなホールディングスは、2015年6月までに公的資金を完済した)。

これらのイベントを確認した段階で、あらためて景気を評価し直しても、投資には十分間に合いました。日経平均株価は、2003年5月30日の終値は8424円でしたが、最終的に18261円(2007年7月9日)まで上昇したからです(この間の上昇幅は9837円、上昇率は117%でした)。

したがって、中長期の投資では、やはり景気の方向と、今がその景気サイクルのどこに位置しているかを考えることが大事です。

直観的にいえば、①景気指標は悪いなかで、明るいニュースが時々見られるようになった時(回復期)、また②景気の拡大を示唆する指標が目立ち始めた時(拡大期の前半)ならば、前向きに投資を考えたい。特に、株価を押さえている景気以外の要因が、投資家のなかでコンセンサス(誰でも知っている状態)になった時(株価に織り込まれた時)は、有力な買いのタイミングと言えるでしょう。

むさし証券チーフストラテジスト、北海道大学新渡戸カレッジ・フェロー。北海道大学を卒業後、山種証券(現SMBCフレンド証券)に入社。エクイティ・デリバティブ取引のディーラーとなり、その後、世界最大の穀物商社カーギルでの日本株運用部長、みずほ証券エクイティ部のトレーディング担当部長などを歴任。一時、ベンチャー企業の立ち上げに参画し、上場を果たした。さらに、アジア中心に海外勤務を経て現職。北大でもグローバル人材の育成を行っている。法政大学経済学修士、日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会正会員。著書に、「デイトレード入門」「株式先物入門」「FX入門」「初めての海外個人投資」(いずれも日本経済新聞出版社刊の日経文庫)など。
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