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【新・相場道五十三次 第31回】「チャートは何を示唆しているのか」を考える

【新・相場道五十三次 第31回】「チャートは何を示唆しているのか」を考える

廣重勝彦
廣重勝彦

前回のコラムではオシレーターと騰落レシオについてお話しました。その続きを書く前に、寄り道をして、足元の相場の動きについて考えます。というのも、珍しい現象が見られたからです。

37年ぶりの現象

珍しい現象というのは、今年7月の株式相場の動きが、極めて小さかったということです。7月の日経平均株価は、高値が20200.88円に対して安値が19856.65円と、月間での上下幅は344.23円でした。これだけ小さな月間値幅は、30年以上前の1986年1月以来です。ただし、1986年1月の日経平均株価の終値は13024円と、いまよりも相当低い水準でした。そこで、値幅そのものではなく、値幅の終値に対する比率で比較してみます。

これを仮に値幅率(=月間値幅÷月の終値×100)と呼べば、今年7月の値幅率は1.7%でした。これよりも低い値幅率の月は、1980年11月(1.2%)でした。ちなみにこの月の終値は7123円でした。ということで、今年7月の小さな値動きと同じ月を探すと、値幅の絶対値で見ても比率で見ても、30年以上前までさかのぼる必要があります。

なぜ、このような現象が起こったのかを解説するならば、次のようになるでしょう。まず、日経平均株価は昨年来の高値水準にありますが、その背景には、世界的な景気の拡大基調があります。これにより、国内企業の業績が回復過程にあるためです。世界景気を見るうえでは、製造業指数が参考になります。

チャートの意味を考える

毎月初めに、主要国の製造業に関する指数が発表されます。米国では全米供給管理協会(ISM)の指数が注目され、また他の国では購買担当者指数(PMI)が注目されます。両者とも購買担当者指数とも呼ばれます。図1は主要国のISMとPMIの推移です。

(図1)主要国・地域の製造業

これらは、各企業の購買担当者に対して、新規受注や生産、あるいは雇用に関するアンケートを行い、それを集計して指数化したものです。前月に調査した数値が月の初め発表されるので、もっとも早く景気の動向が把握できる統計として注目されています。

ISM・PMIともに、50を超えるかどうかが景気の分かれ目です。50を超えていれば製造活動が拡大しているため景気拡大と判断され、50を割り込むと、製造活動が縮小しているため景気後退と判断します。

そこで、実際に8月初めに発表された製造業指数をみると、日本は52.1、米国は56.3、欧州は56.6、そして中国は51.1でした。主要国・地域の指数はいずれも50を上回っており、製造業は世界的にそろって拡大しています。

実は、グラフ(図1参照)で見てもお分かりの通り、1年前までは各国の状況はまちまちでした。日本の指数は、昨年前半は50をり、中国は2015年から2016年の半ばにかけて、50を下回る状況が続きました。日経平均株価が昨年の安値をつけたのも、ちょうどこのころでした。世界的な景気の動きが、日本の株価に大きな影響を与えていることが分かります。

現状を見ると、世界の製造業指数が拡大を示しています。この経済環境は、二つの面から日本株に良い影響を与えます。一つは、企業の売上高の増加です。中国の景気の持ち直しで、最近、中国向け出荷が増加しているとの報道が目立ちますが、これが日本企業の業績を改善し、株式の買いにつながります。もう一つは円相場の落ち着きです。投資家は、世界経済が拡大基調にあることをチャンスとみて、リスクをとってでも収益をあげる動き(リスクオン)を強め、その結果円相場の上昇圧力が弱まると見られます。

というのも、円相場は、市場においては一種の「安全資産」とみられているからです。投資家は、経済の見通しが不透明と感じるとき、リスク資産から安全資産に資金を戻そうとするでしょう。このときに、円への買い圧力が強まり、円高になりやすいというロジックです。逆に見れば、経済の見通しが良好ならば、投資家は、安全資産からリスク資産に資金を振り向けると見られます。

したがって、世界景気の拡大は、国内企業の業容拡大と、円相場の落ち着き(円高回避)の両面から、日本株にとっては好材料です。そして、過去30年にはなかったこととして、日本銀行の上場投資信託(ETF)の購入があります。日銀は年間6兆円の規模のETFを買う政策を実施しています。これは、需給面から株価を支える大きな要因になっています。

一進一退の背景

一方で、上値を押さえる要因もあります。米国に次いで欧州でも、金融引き締めが現実味を帯びてきました。これを受けて、当面の世界景気の見通しが、いくつかに分かれてきました。このまま拡大するという向きと、一時的に拡大ピッチが弱まるという向きに分かれています。

また、米国トランプ政権の動向に不透明感が強まっていることで、議会での減税の決定が遅れることも、日本株にとっては不透明要因です。減税が遅れると、米国の追加利上げの時期も想定より遅れる可能性があります。その結果、米国の金利が低下すれば、ドル安が進み、円が上昇することが警戒されるためです。

日本国内の経済について考えると、先述の製造業指数は、中国よりも高いのですが、米国や欧州の水準には見劣りします。加えて、日本の製造業PMIは、6月・7月と2カ月連続で低下しています。背景には、製造業の賞与が5年ぶりに減少したことや、働き方改革の推進による手取り収入の減少が心配されています。これが、企業の購買担当者の意識に影響を与えれば、投資家もしばらくは様子見になりやすいでしょう。

さらに、日本の政局に不透明感が出始めたことも、上値を買う動きを慎重にさせる要因です。その結果、日本株の買い材料と売り材料が混在することから、日経平均株価の20000円という象徴的な水準をはさんだ一進一退になっているのです。

はらみ足が意味するもの

さて、テクニカ分析の観点からは、図2で示した7月の月足()の株価パターンは「はらみ足」と言われます。日足でいえば、本日の高値が前日の高値よりも低く、かつ本日の安値が前日の安値よりも高いケースです。前日の値幅の内部に本日の値幅が収まる形で、インサイドバーとも言われます。

(図2)はらみ足

日足の解釈では、はらみ足が、株価の大きな動きの前触れになるという説もあります。はらみ足がエネルギーをため込む動きと解釈されるのです。月足でみれば、過去の例では、はらみ足の次の月に相場がすぐに動意づくわけではありません。はらみ足の月の後に、狭いレンジの動きが続く場合も少なくありません。ただ、当然ですが、やがては上値ないしは下値を試す相場になります。そのとき株価のトレンドが出始めるのですが、それは長期のトレンドの再開になりやすいというのが、最近の例を観察した結果です。

例えば、過去5年の月足ではらみ足が見られたのは、2013年が10月、2014年が5月、2016年が3月、5月、7月、そして2017年が2月と7月です。これらのはらみ足の月(今年7月は除く)は、やがて新たな上昇相場の起点となりました。

これを見ると、月足のはらみ足は、長期トレンドの中における調整局面の一種とも言えます。新たな不透明材料を、株価が織り込む場面です。はらみ足は、それまでのトレンドを前提にしながら、そのトレンドを積極的に打ち消す要因があるかどうかを吟味する局面です。したがって、そのような大きな要因がないことがわかれば、従来のトレンドが再開される可能性が高いと見るべきでしょう。

偶然ですが、今年と同様に、昨年の7月もはらみ足でした。この時は、年末にかけて上昇トレンドが見られました(図3参照)。これは、先述の通り世界経済の回復基調を受けたものです。今年も、この点の見極めがポイントの一つになります。

(図3)日経平均株価

このように、チャートのパターンだけを投資の判断にするのではなく、その背後にある経済要因を考えることが大事です。チャートパターンをみて、それが何を意味しているのかを考えることは、相場の次の展開を読む大きな助けになります。

相場の徒然:やっぱりトランプ大統領次第

2017年8月2日、NYダウは22016ドルで取引を終了し、史上初めて22000ドルの大台を超えました。この日は、良好な売上高見通しを発表したアップルが過去最高値を更新したことが、指数の上昇をけん引しました。これで、NYダウは年初来で11.4%の上昇です(8月2日時点)。日経平均株価が、8月3日現在で4.8%の上昇にとどまっていますから、米国株式の好調さが目立ちます。

この差は、米国の製造業指数が、日本のそれを上回っていることが反映されています。また、米国では、トランプ大統領が減税などの景気刺激策を打ち出すとの期待が消えていないことも、NYダウを支えます。

一方、トランプ政権の混乱で、減税が遅れるかもしれないとの思惑もありますが、米国の株式相場では、必ずしもそれが悪い材料とは見られていないようです。というのも、減税が遅れるならば、利上げのペースが緩くなりそうだとの思惑が強まるからです。その結果、余剰資金が株式市場に滞留するとの期待が生まれます。

実際、今年12月の連邦公開市場委員会(FOMC)において利上げが実施される確率(金融市場に織り込まれている確率)は、7月の上旬は50%を超えていました。しかし、8月1日には38.7%にまで低下しました(図4参照)。利上げが遅れれば、ドルが売られやすくなります。そして、ドル安は、国際展開をしている米国企業にとっては利益のかさ上げ要因です。

(図4)米国の12月の利上げ確率

ということで、米国は、減税があれば企業業績にプラスになるし、なくてもドル安で企業業績にとっては悪くない。このように考えれば、NYダウが史上最高値を更新するのもうなずけます。一方、米国の減税が実現され、米国金利の上昇が続けば、ドル高・円安ですから、日本株にとっては追い風。しかし、減税が先送りされ、米国の利上げが遅れると、ドル安・円高への思惑が強まることで、日本株の頭が抑えられます。これが、NYダウと日経平均株価の年初来上昇率の差に表れています。ということで、日本株の先行きを考えるうえで、やはり米国の政策がどうなるかが注目されます。

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