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【新・相場道五十三次 第32回】ボラティリティを感じる

【新・相場道五十三次 第32回】ボラティリティを感じる

廣重勝彦
廣重勝彦

前回のコラムでは、最近話題になっている「相場のこう着」、とりわけ7月の相場がはらみ足であったことを取り上げてみました。この状況を受けて、市場参加者の関心が、相場の方向だけでなく、相場がいつ大きく動くのかに向かっています。言い換えると、市場参加者が、「リターン(利益)」だけでなく「リスク(損失)」に対して注目しはじめたということです。今回は、ここで言うリスクについて考えてみます。

相場のぶれの感じ方

「ボラティリティ」という金融の専門用語が、新聞でもしばしばみられるようになりました。また、テレビの市況関連ニュースでは、「恐怖指数(VIX指数)」という言葉も使われます。これらは何を意味しているのでしょうか?

この問題を考えるために、まず投資の目的をはっきりさせます。それは、利益(リターン)を得ることです。例えば、株価1000円の株式に投資して、図1のように1年後に株価が1200円になれば、得られる利益は200円です。この200円を稼ぐことが、投資の目的です。

(図1)株価推移のイメージ(1)

これを年率に換算すると、以下の通り、リターンは20%です。
((1200円-1000円))÷1000円×100=20%

通常は、1000円の株価が、図1にあるような一直線で1200円になるわけではなく、上下にぶれながら、最終的には図2のように1200円にたどり着くのが普通です。

(図2)株価推移のイメージ(2)

図1と図2はともに、1年後には1200円になっていますので、年率で20%リターンは同じです()が、途中の株価の経路(実線)は、図2では大きくぶれています。

図2では、半年後の株価は、当初の1000円を下回り、損失となっていました。その後株価が急回復したことで、1200円に達しました。この動きを見ると、図1よりも図2の方が、直観的に投資の危険性が高い(リスクが高い)と感じられるのではないでしょうか。

もちろん、図2では、最初の数カ月は、図1よりも上昇スピードが速い(リターンが大きい)場面がありました。ただ、多くの投資家は、そのような有利な場面を評価するより、一時は損失が発生した危険性に注目するものです。したがって、多くの投資家は、同じ結果が予想されるのならば、図2の株価の値動きよりも、図1の値動きの方を選びたいと考えるでしょう。

ボラティリティのイメージ

図2に見られるような株価の「ぶれ」は、ボラティリティと言われます。予想されるリターンから、全体的にどの程度かい離するか、そのかい離の度合いを示します。そして、予想するリターンから結果が外れることは、投資のリスクと言えます。すなわち、ボラティリティはリスクを表しています。

(図3)株価推移のイメージ(3)

図3では、aとbの2つの株価推移が示されています。aに対してbは、上昇するときは大きく上がりますが、下落するときは大きく下がります。結果的には、同じリターン(1年後には同じ水準に上昇)でしたが、bはaよりもボラティリティが大きいと判断されます。ところで、予想されるリターンが20%で、株価にぶれがなければ、図1のようなグラフになります。このように株価がコンスタントに上昇することはないのですが、元本に対する利回りが決まっている預金ならあり得ます。

仮に年率6%の預金に預けることを考えると、100万円を銀行に預ければ1年後には金利として6万円が入りますから、元利合計で106万円になります。ただし、預金は毎月着実に金利がつきますから、毎月一定のペースで元利金(元本+金利)が増加します。1年で6%の金利は、1カ月では0.5%(=6%÷12カ月)です。

一か月単位の利息の付き方を見てみると、

  • 1か月…元本 + 元本 × 0.5%
  • 2カ月…元本 + 元本 × 0.5% × 2か月
  • 6カ月…元本 + 元本 × 0.5% × 6か月
  • 9カ月…元本 + 元本 × 0.5% × 9か月

となります。これらの各月の結果を線で結べば、図4のような右肩上がりの直線になるため、預金にはボラティリティが極めて低い(無リスク)と言えます。

(図4)預金のイメージ

なお、図3では、比較的ぶれが小さいaとぶれの大きいbが示されていますが、いずれも1年後には1200円になり、年間では20%のリターン(利益)が得られました。では、次の1年を展望して投資しようとするとき、投資先としてaとbのどちらが有望でしょうか。aとbの予想される利益が同じなら、ボラティリティに示されるリスクが小さいaの方が有利ということになります。

ボラティリティから求める「恐怖指数(VIX)」

以上がボラティリティのイメージですが、市場全体のボラティリティも存在します。それを示す指標の代表例が、「恐怖指数」とも呼ばれる「ボラティリティ・インデックス(VIX)」です。これは、オプションの取引価格から、市場参加者が今後の相場のぶれをどの程度に見積もっているかを推定した、米国の市場参加者が予想するボラティリティを示します。なお、VIXは過去の相場のぶれではなく、将来の相場のぶれを予想したものです。

仮にVIXが上昇すれば、市場参加者は今後の相場のぶれが一段と大きくなると読んでいるということです。これは、相場の先行きに対して、投資家はいまよりも警戒感を持ちはじめたということを示します。ただし、VIXの上昇は相場の下落だけを示唆するものではなく、値動きの幅が大きくなることを警戒するものです。

下ぶれを警戒するから「恐怖指数」

行動心理学の研究により、人間は利益よりも損失に対して敏感に反応することが分かっています。この視点に立つと、ボラティリティが大きくなることは、市場参加者は、利益よりも損失が想定よりも大きくなると予想しはじめたと考えるべきでしょう。

投資家が相場の先行きを怖がるにつれて、数値が上がることから、VIX指数は通称「恐怖指数」とも呼ばれています。若干大げさな表現ですが、市場心理を知る上での参考にはなります。

なお、日本でも、同様の指数があります。日経ボラティリティ指数です。こちらも、日本のオプション市場の参加者が予想する将来のボラティリティです。

相場の徒然:低ボラティリティの思い出

VIXは、今年7月21日には過去最低水準(9.36)まで低下しました。超低水準のVIXからは、市場参加者がしばらく相場のリスクは低いと見ていると判断できます。これは、中長期投資の立場からは利益の確定売りを先延ばしにする要因であり、短期の投機の立場では、新たな買いが入りやすい環境と言えます。この観点からは、低いVIXは、NYダウが史上最高値を更新するのに符合した動きでした。

一方、低すぎるVIXを警戒する向きもあります。低水準のVIXは、市場に楽観が横行していることを示しているとも言えます。あまりに落ちつきすぎていることから、今後のエネルギーがたまっているのではないかと警戒しているのです。その典型的な例となったのが、図5のチャートです。

(図5)VIX

その当時、極めて低いボラティリティについて、私は、知り合いのファンドマネージャーから、「なぜ、こんなにボラティリティが低いのですかね?」と聞かれたことを今も覚えています。かれは、相場が動かないので、投資してももうからないと嘆いていました。

また、不動産ファンドを運用しているトレーダーからは、「都心の物件は高すぎて投資収益が低下しているのだが、この先も不動産を買っていいのかどうか?」という質問を受けたことを思い出します。このころ、内外の投資ファンドは、都心の不動産の価格が高くなりすぎたので、地方都市のマンションにも積極的な投資をはじめていました。

この時の低ボラティリティの要因は、のちに明らかになります。米国のサブプライムローンに代表されるリスク抑圧の動きでした。大手の機関投資家などがデリバティブによる保証をすることでリスクを吸収し、またリスクを軽く見積もる格付けなども横行した結果、見せかけのリスクが低くなり、ボラティリティが低下していたのです。その結末は、サブプライムショックやリーマンショック、世界金融危機として現れました。

これを契機に、隠されていたリスクが一気に噴き出したことで、株価の暴落と世界の金融システムの崩壊が懸念されるまでの混乱をもたらしました。ほんの10年前のこの経験を覚えている人は、現在の低ボラティリティと低いVIXを懸念しているのです。

10年前と現在は違うという意見ももちろんありますが、「今回は前回とは違う(This time is different.)」という言葉は、市場参加者が投資判断を間違えるときに使われる指摘もあります(「国家は破綻する」カーメン・ラインハート、ケネス・ロゴフ著)。

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