
【新・相場道五十三次 第6回】投資対象となる銘柄をどのように見つけるか
前回のコラムでは利益の変化が株価の動きにつながること、したがって株式投資では一株当たり利益(EPS)の動きを予想することがカギとご説明しました。個人投資家でも会社四季報や会社情報、決算短信などを活用することでEPSの傾向をつかみ、その先行きについてもある程度は見通せるでしょう。
次の問題は投資の対象となる企業をどのように見つけるかです。
この記事のもくじ
投資対象を見つける方法
投資銘柄の候補は、そもそもどうやって見つければよいのか。これには二つの方法があります。
- 過去の増益率などを基準に、すべての上場銘柄をふるいにかけて絞り込む
- 企業のビジネスに注目して、投資対象になるかどうかを吟味する
スクリーニングで絞り込む
まず1.の方法はスクリーニングと言われます。例えば、上場銘柄の中から「過去5年のEPS増加率が年平均で5%を超えていること」などの条件で絞り込んでいく方法です。
一見難しそうですが、Excelなどの表計算ソフトと企業業績のデジタルデータが入手できれば、あとはパソコンで処理できます。そのため、同じ基準で絞り込むだけなら誰でも同じ銘柄にたどり着くことになります。
これでは人が買った後の高値を買うケースが増えるでしょう。それを避けるためには、スクリーニングで絞り込んだ銘柄であっても、実際に投資対象とするかどうかの判断は別の角度から吟味しなければなりません。
情報収集で探す
銘柄探しでは、2.の方法が一般的です。さまざまな情報を集めて有望だと思える銘柄を選びます。その銘柄の過去の業績動向からEPSの先行きを考えて、投資するかしないかを決めるという方法です。こちらは一見して簡単そうですが、実は難しい部分があります。そもそも、どのような情報を集めれば良いのでしょうか?
自分がよく知っている企業の株式に投資する、あるいは自分が使っている製品のメーカーに投資すれば良いという人もいます。たしかに、その製品の良さが分かっているのなら分かっていない人よりも有利といえます。その製品については他の人よりも多くの情報を持っていることになります。
ただし、いま使っている製品が優秀でヒットしているのならば、その事実はすでに株価に織り込まれているはずです。多くの場合、消費者がいいなと思うころには株価は上昇しています。それだけ情報が流れるスピードは速いのです。
また、大きなニュースが出た企業にあわてて投資するのは避けた方が良いでしょう。例えば、画期的な医薬品の開発などで株価が大きく上昇するケースがあります。しかし、その医薬品が企業利益の増加にどれだけ貢献するのかがわかるまでには、かなりの時間が必要です。ニュースによって株価が大きく動いた銘柄は、しばらくは目先の値動きを追う投機の対象でしかありません。このようにみると、一般の投資家が情報を頼りに銘柄を探すのは無理なのかと聞かれると、私はかなりのレベルで"できる"と考えています。そのコツは日本の経済・社会の課題を考えることです。
国策の中で成長する企業を見出す
「国策には逆らうな」という相場格言があります。その意味は、「政府が決めた政策(国策)について文句を言ってもはじまらない。むしろ、素直にその政策で潤う企業に投資すべきだ。」ということです。
お金もうけのために「長い物には巻かれろ」と言われているような気になるかもしれませんが、この格言を深く考えれば投資の本質さえ見て取れます。
そもそも、国策はどこから来るのでしょうか。それは、次のような事情から来るのです。
- 社会や経済に関する課題
- 技術革新
- 国際的な情勢の変化
このような、日本と取り巻く課題を解決するために、あるいは変化に対応するために政策が打ち出されます。
さらに、その課題や変化を掘り下げれば、「こうなってほしい」「こうなりたい」あるいは「こうなったら困る」という国民の気持ちがあります。通常これらは単なる願望や欲求にすぎません。
ところが、国家や社会がこの課題を解決しなければならないと決めると、政策になり、財政資金が投入され、あるいは規制緩和などが実施されます。この段階に至ると、国民が抱いてきた願望や欲求は経済学上の「需要」になります。
単なる欲望は人々の心の中にあるだけものですが、そこにお金が使われることになると「需要」となり、経済を動かす力となるのです。そして、国策の場合、通常は短期間では終わりません。長期にわたって経済・社会に影響を与え、世の中を変えていく効果があります。
したがって、有望な銘柄を探すための最もシンプルな方法の一つは、政策を追ってみることです。通常は目をとどめないような新聞記事でも、丹念に読み解くだけで政府や関係団体の中でどのようなことが議論されているのかが分かります。
その結果として、財政が使われ、あるいは規制緩和などが実施されれば、日本社会に長期にわたり影響を与えることになります。その中で、成長する企業が次第に見えてくるでしょう。
日本の課題から政策を読み取る
いま日本が抱えている大きな課題は、急速に進む少子高齢化です。その影響は、経済成長率の鈍化や社会保障に対する不安という形で社会を圧迫しはじめています。
マスメディアでは毎日のように高齢運転者が加害者となる自動車事故が取り上げられます。ただ、地方は過疎化し、鉄道やバスの便が悪化していることから、自家用車がなければ生活できないことも事実です。
また、少子化は「失われた20年」の要因の一つです。1990年のバブル崩壊以降、20年以上にわたり日本の経済は低成長となり、デフレ色を強めてきました。
わが国の経済成長率(実質GDP成長率)は、1996年~2015年までの20年の平均で0.77%でした。国際通貨基金(IMF)の予想では、2016年~2021年までの成長率は平均で0.49%となっています。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年に8,716万人でピークを打ち、その後は低下し続けています。2013年には7,901万人となり、1981年以来32年ぶりに8,000万人を割りこみました。したがって、失われた20年のうち少なくとも後半10年は、人々が消費や投資にお金を回さず、貯蓄に励んだことが大きな要因でしょう。その結果、国民全体では約900兆円ものお金が預貯金として積み上がっています。
消費者がモノやサービスにお金を使わないのですから、結果として企業も守りに入り、消費も投資も手控えられて日本の経済成長は抑えられてしまいました。このような状況を受けて、少子高齢化に対して国民は危機感を共有しはじめています。政治もその不安を解消する方向に政策を立てる必要があります。
社会やビジネスを変える技術に注目する
安倍内閣は2016年6月2日に「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」を閣議決定しました。
政府は『回りはじめた経済の好循環を、持続的な成長路線に結びつけ、「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指し、「日本再興戦略2016」を閣議決定しました。今後は、これに基づき、①新たな「有望成長市場」の戦略的創出、②人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する「生産性革命」、③新たな産業構造を支える「人材強化」の3つの課題に向けて、さらなる改革に取り組んでいきます。』と述べています。
このうち②の「生産性革命」が、先に述べた課題に対する政策との解釈ができます。少子化に対応するためには労働者の一人ひとりの生産額を引き上げることが大事です。新しい技術を使い、働き方を変えることで、労働生産性(労働者一人当たりの付加価値額)を引き上げるということです。
そして幸運なことに、課題を克服するために必要な技術が最近次々に生まれてきました。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、ビッグ・データ、そして自動運転などです。
この新しい技術をうまく取り入れることで、生産性を引き上げることが期待されています。そして、このような社会やビジネスを変えていく技術を活用する企業こそが、投資の候補として注目されるのです。
相場の徒然:投資に100%はない
私がトレーディング業務についていた頃、株式や株式先物の売り買いは、相場見通しの確信度が6割くらいの時点で行わないとダメだと感じていました。8割方は相場が上昇するだろうと思ったときには、すでに株価は上昇しはじめており間に合わないからです。
この点に関しては興味深い文章があります。パナソニックの創業者である松下幸之助氏が書いた大ベストセラー「道をひらく」(PHP研究所)の中で、
100%の見通しは神様だけがなしうることであり、人間としては60%がせいぜいだ、そして「60%の見通しと確信ができたならば、その判断はおおむね妥当とみるべきであろう」
と指摘しています。
経営の神様と言われた松下幸之助氏でさえ、60%しか先を見通せなかったのだという解釈もできます。しかし、「60%の確信度があるビジネスなら、まずやってみることが大事だ」と松下幸之助氏が教えてくれているように感じられます。
70%や80%の確信度がある時は、すでにみんなが注目しているから、ビジネスチャンスも投資のチャンスもないという意味に思えるのです。
松下幸之助氏は同書で『勇気と実行力が、60%の判断で100%の確実な成果を生み出していく』とも述べています。投資に置き換えるなら「60%の確信度があれば、まず投資を実行してみる。そして、その後は適切な管理を行ってそれ以上の成果を積み上げていく」ことが大事ということです。これは、わたし自身のトレーダーとしての経験から見ても腑に落ちるお話です。
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