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【新・相場道五十三次 第15回】景気と株価のかかわり方

【新・相場道五十三次 第15回】景気と株価のかかわり方

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廣重勝彦
廣重勝彦

投資に必要な基礎知識としては、企業分析、マクロ経済分析、そしてテクニカル分析があります。一見難しそうですが、株式相場と結び付けて具体的に見ていけば、時間とともにその知識は身に付き、また使いこなしていくこともできます。その結果、市場だけでなく、ビジネスや社会の理解も深まるでしょう。

前回までのコラムでは、投資に必要な3つの基礎知識のうち、企業分析について、ROEやPBRを使って考えてきました。ここからは、マクロ経済分析について考えます。

景気と株価

マクロ経済分析は、一国全体の経済を分析する方法です。なぜ、会社の株価を考えるのにマクロ経済を見なければならないか? その理由は、マクロ経済が企業業績に、直接影響するからです。以前お話ししましたように、株価は、理屈の上では、企業が生み出す将来利益(一株当たり利益)の割引現在価値という考え方ができます。式で表すと以下の通りです。

(理論)株価=一株当たり利益/割引率

分子の一株当たり利益は、会社が自ら稼ぐ必要がありますが、前段階として企業は商品を販売し、あるいはサービスを提供して売上をあげる必要があります。その売上は、国の経済状況(マクロ経済)の影響を受けます。というのも、国内の景気が良ければ、消費者の財布のひもが緩み、商品の売り上げは伸び、利益は増加します。逆に、景気が悪ければ、同じ商品を販売しても、消費者は節約志向となっているので、売り上げは伸びず利益は減少します。

このように、会社の将来の利益は、マクロ経済の影響を受けることになります。景気がいいから株価が上がるとか、景気が悪いから株価が下がるという漠然とした話ではありません。景気の良し悪しが企業の売上高に影響し、利益が変化するために株価が動く。だからこそ、景気を見る必要があるということです。なお、この式のなかで、分母の割引率は、便宜的に金利と置き換えることもできます。この金利も、後述しますが、マクロ経済の影響を受けます。その結果として、株価に直接影響します。

シクリカルとディフェンシブ

ただし、会社ごとに、景気の影響は異なります。機械や半導体に関連する会社、すなわち設備投資関連銘柄は、景気の影響を強く受けます。また、鉄鋼、非鉄、化学、海運や石油石炭なども同様です。これらは景気敏感株、あるいはシクリカル銘柄とも言われます。英語のシクリカル(”Cyclical”)は、「景気循環の(形容詞)」という意味です。周期や循環という意味の名詞、サイクル(”Cycle”)から派生しています。

シクリカルの反対はディフェンシブ。ディフェンシブ銘柄は、会社の利益が景気の影響を受けにくい銘柄です。すなわち、景気の良し悪しが売上に大きく影響しない日用品やインフラなどを提供する企業の銘柄です。これらの会社が提供する商品やサービスは、景気の良し悪しにかかわらず生活のために利用するものですから、比較的景気の影響を受けにくいのです。

シクリカル銘柄は、景気が回復する場面では、利益の上乗せが見込めるため、株価は上昇します。その結果、景気の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄よりも、投資の成果は良くなります。逆に、景気が悪化する局面では、シクリカル銘柄は下落しやすくなる一方、ディフェンシブ銘柄は景気の影響を受けにくいので、ディフェンシブ銘柄の方が投資成果は良くなります。したがって、景気の状況や先行きを考えることで、どのような銘柄にいつ投資したらよいかということについて、重要なヒントが得られます。

GDPと経済規模

ところで、そもそも景気とはなんでしょうか?景気とは、国民の経済活動の状態です。景気は英語ではビジネス(”business”)と言いますが、ビジネスが活発ならば景気が良いし、ビジネスが停滞すれば景気は悪いというイメージです。ちなみに、英語でのあいさつに”How is your business?”(ハウ・イズ・ユア・ビジネス-「調子」はいかがですか?)がありますが、まさに、国の経済の「調子」がビジネス(景気)です。

では、景気をどのように計るのか? その最も典型的な方法は、国内総生産(GDP)をみることです。GDPは「一国が一定期間に 国内で生み出した付加価値の総額」と定義されます。日本のGDPならば、日本国内で生産されたモノや提供されたサービスが、全部でいくらだったか(何円だったか)を示しています。GDPのイメージとしては、国の稼ぎと考えればよく、人に例えれば「年収」です。

2016年の日本のGDPは537兆円でした。これは、名目GDPと言われ、国の経済規模を示す指標です。米国の名目GDPは約1,984兆円(2015年は18.04兆ドル、1ドル=110円で換算)ですから、米国の経済規模は、日本の約3.7倍と言えます。人になぞらえれば、日本が年収540万円の社員に対して、米国は年収が約2,000万円の重役という感じです。この経済規模の差の大きさを見れば、米国経済の影響が日本に及ぶのは当然と言えるでしょう。

実質GDP成長率と景気

ただ、GDPを景気の観点で使うとしたら、その規模ではなく、変化に注目する必要があります。年収がいくらあるということよりも、その増減です。国の年収が増えれば景気は良いし、あまり増えなければ景気は良くない。さらに年収が減れば不況です。ここでは実質GDP成長率を使います。これは、「実質」、「GDP」、そして「成長率」の組み合わせです。

「成長率」というのは、変化を示します。以前に比べて何パーセント増えたか、あるいは何パーセント減ったかが成長率です。「実質」は、物価を考慮するという意味です。反意語が「名目」で、こちらは物価を考慮しないという意味。先ほどの名目GDPは物価を考慮していない数字です。

ここで物価を考慮するのは、年収が増えても、おなじだけ物価が上がれば、その年収で買えるものは変わらない。すなわち、実質的には、年収が増えたのではなく、お金の価値(購買力)が下がっただけだからです。先ほどの年収でいえば、年収500万円が5%アップして525万円になったとします。これは、物価を考慮しない名目の年収が上がったということです。しかし、この間に物価が5%上がったら、すなわちモノやサービスの値段が5%上がれば、年収アップしても買えるものは1年前とは変わりません。だとしたら、昨年と今年の年収は一緒とみる方が良いでしょう。これが、物価を考慮するということです。

実質で見たGDPの成長率は、「経済成長率」とも言われます。日本の過去の経済成長率を見ると、高度成長期(1955-1970年)には、前年比9.6%(平均)と高水準でした。しかし、その後、オイルショックからバブルまで(1975-1990年)、平均で4.6%に減速。バブル崩壊のあとは、「失われた20年」、あるいは「失われた25年」と言われますが、この間の成長率は、平均で0.9%まで低下しました(1991-2015年)。「失われた・・・」と呼ばれるのは、日本の経済規模がほとんど変わらなかったからです(図1参照)。

(図1)日本のGDPと成長率

今後はどうか? 国際通貨基金(IMF)の予想によれば、2016-2021年の平均は0.5%にとどまります。日経平均株価は過去25年にわたり20000円超えの水準が上限となっていますが、このような景気の見通しが背景にあると言えます。

潜在成長率による景気判断

ところで、このIMFの先行き見通しは、「潜在成長率」と読み替えられます。潜在成長率は、その国の経済の実力と言えます。日本の消費者や企業などがその持てる実力通りに経済活動をしたら達成できる成長率でありIMFの見方を採用するなら、日本の潜在成長率は0.5%と言えます。理屈の上では、景気の良し悪しは、この潜在成長率を基準に判断します。

実際の成長率が潜在成長率を上回れば、景気は良いと判断されますが、このとき、企業の生産活動がフル稼働になるだけではなく、失業者が事実上いない完全雇用を達成することから、賃金が上昇し、物価が上昇します。これを受けて、中央銀行は景気の過熱を防ぐために金融引き締め(政策金利の引き上げ)を行います。銀行からお金を借りにくくして、投資や消費の拡大を抑制します。その結果、景気拡大は減速して、潜在成長率に近づくか下回るでしょう。

一方、現実の成長率が潜在成長率を下回る場合は、景気が悪い状況です。モノが売れないし、失業者も上昇する局面です。中央銀行は、景気刺激策として金融緩和(政策金利の引き下げ)を行います。銀行からお金を借りやすくして、投資や消費にお金が向かうようにするためです。その結果、景気はやがて回復に向かいます。すなわち、現実の成長率は潜在成長率の方に向かい、やがてそれを上回るでしょう。いずれにしても、景気は潜在成長率を中心として、それを上回ったり下回ったりと、循環します。まさに、シクリカルです。

景気サイクルを踏まえた投資が重要

となれば、シクリカル銘柄への投資であれば、景気が良い時には少しずつ金額を減らし、逆に景気が悪い時は少しずつ増やすといった戦術が考えられます。あるいは、これから景気が悪くなりそうだとすれば、シクリカル銘柄よりもディフェンシブ銘柄への投資を考える必要があるでしょう。中長期の投資対象銘柄の選択や、投資タイミングを計るために、景気の動きに注目していきましょう。

日本の潜在成長率が0.5%程度とすれば、2016年の経済成長率(実質GDP成長率)は1.0%だったことから、理論的には現在の景気は悪くないと言えます。しかし、景気回復の実感がないという人が多いのも事実です。物価上昇が鈍いことと合わせて、中央銀行である日本銀行は、金融緩和を継続しています。このように、理屈と現実の違いがあることにも留意しましょう。同時に、このような違いがいずれ修正される可能性があることにも留意したいものです。

投資の徒然:グレート・リセッションとトランプ減税

米国は、2008-2009年に景気後退を経験しました(2008年は-0.3%、2009年は-2.8%)。景気後退は、国の経済が縮小している状況です(図2参照)。

(図2)米国の経済成長率(前年比)

この米国の景気後退については、日本では『リーマンショック』と呼ばれ、米大手投資銀行の破たんによる一時的な景気悪化ととらえられがちです。しかし、米国では『グレート・リセッション(大不況)』と呼ばれ、第二次大戦後の最大の景気悪化局面として、深刻にとらえられています。このとき、普通の家庭が、仕事も家も一気に失ったからです(失業と住宅ローンの債務不履行)。だからこそ、FRB(米連邦準備制度理事会)は、国債などの資産の買取りという強力な金融緩和(QE)で、不況からの脱出を図りました。この策は奏功し、米国経済は2009年6月に底入れし、2010年にはプラス成長に転じました。

ただ、景気はすでに8年近く回復(拡張)しています。これは、過去の例では、最も長期間の拡大です。この観点からは、米国景気は、そろそろピークを打つか、あるいはすでにピークを打っていても不思議はありません。実際、さまざまな統計データには先行きに陰りが見られます。

それでも、米国の株式相場が過去最高水準にあるのは、トランプ大統領が登場したからです。トランプ大統領が掲げる法人税減税や規制緩和、インフラ投資が実現すれば、米国景気が一段と拡大するとの期待があるためです。これを受けて、製造業者や消費者へのアンケートによる経済統計であるISM指数や消費者信頼感は、高水準を保っています。

これを受けて、市場参加者はいま、トランプ政策の実施の有無を見守っています。今後数か月以内に政策への期待が続くうちに、トランプ大統領と米議会が、その一部でも実現できるかどうか。これが、米国景気の方向と、株式相場や円相場の行方を占うポイントとして注目されます。

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