REITの借り入れ~海外REITと比較して
こんにちは、葉山です。初めての人に向けて、REIT(REAL ESTATE INVESTMENT TRUST)、すなわち、不動産投資信託を今回は『REITの借り入れ』に関して、海外REITとの関係を絡めつつ、詳しく書いていきます。
これまで、REITの仕組みや用途別の不動産について説明してきました。個人的には投資対象として、そこまで魅力的ではないと思いますが、テキサスやら、メンフィスやらの不動産に関して、書籍がたくさん出ているので、いったん、アメリカのREITの状況に関して説明します。
この記事のもくじ
1.50年近い歴史のあるアメリカのREIT
アメリカのREIT自体は1970年代からあり、既に50年近い歴史があります。そのため、投資対象となっている不動産の用途やその規模も日本のそれとはケタ違いです。例えば、世界最大のREITは、アメリカの市場に上場しているサイモンプロパティで時価総額は6兆円を超えています。主な投資先はアメリカの商業施設を中心に、ヨーロッパやアジアにも投資エリアを拡大しています。一方、日本最大のREITは、三井不動産がスポンサーとなっている日本ビルファンドです。国内の事務所ビルに投資を行い、時価総額は8,600億円程度となっております。8,600億円も十分に大きいですが、サイモンの時価総額6兆円と比べると、アメリカ市場の規模の大きさがうかがえます。なお、共に2017年3月末時点でのデータを使っています。
2.日本とアメリカ金利や配当利回りとの比較
次に、日本とアメリカ金利や配当利回りとのスプレッドに関して比較をしていきます。3月14日、15日の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の利上げが決まったものの、年4回なのか、それとも年3回なのかハッキリしないため、トランプ政権の不透明感もあり、金利は一時的に2.5%を超えていましたが、その時点をピークに下落基調です。現時点で米国長期国債の金利が2.0%前半ぐらいなのに対して、USREITの配当利回りはザックリ4.0%を少し上回るぐらいです。つまり、USREITの配当利回りから米国債の金利を控除したスプレッドは1.5%~2.0%ぐらいです。一方、日本は2016年にマイナス金利が叫ばれていた日本長期国債の利回りは0.0%前後、JREITの配当利回りは4.0%を切る水準です。つまり、同じように計算するとスプレッドは4.0%弱あり、数字だけを見ると日本の方が魅力的に映ります。
将来の展望いかんでは引き締めが始まっているアメリカより、まだ緩和を続けざるを得ないJREITの方が収益性は高そうです。なぜなら、政策金利の上昇は、銀行等からの借り入れを前提に回っている不動産投資市場において、直接的に運営コスト高になってしまい、短期的にはREITに限らず、不動産市況全体に、ネガティブな影響を与えるからです。
3.なぜ不動産投資市場、REIT市場が主に銀行からの借り入れを中心に回っているか
なぜ不動産投資市場、REIT市場が主に銀行からの借り入れを中心に回っているかについて書いていきます。
まず、REIT、投資法人がお金を借りる理由は、収益性を向上させるためです。ちなみに、銀行等からの借り入れや投資法人債などの社債を発行した借り入れを、レバレッジを効かせると言い、各投資法人はレバレッジが高くなってくると、物件の売却による借入金の返済や公募増資により、自己資金部分を増やすことで、借り入れの割合を低くしようと動きます。
では、借り入れを行い、収益性を向上させるとは、どういったことか説明していきます。例えば、100円の不動産を全額自己資金で購入した場合には、不動産単体の投資利回り、例えば5%であれば、5円がリターンになります。ところが、ここに借入金として金利年1%で50円を借りてきた場合には、自己資金50円でこの不動産が買え、収支は以下のようになります。収入5円-金利1円=手残り4円で、50円の自己資金に対して、8%のリターンとなります。
これは、全額自己資金で投資を行った場合と比べ、大きな違いです。さらに、REITに限らず、各不動産投資家は自己資金に対する収益性をさらに高めるために、例えば、借り入れの割合を50円から70円や80円に増やすことや、金利を1%から0.5%に減らす交渉を銀行等と行います。この時、借り入れの金利は各国の長期国債の金利をベースに上下します。通常、銀行借り入れや投資法人債は、長期国債の金利に一定の利幅を乗せ、借り入れ希望者に金利として条件を提示し、承諾を得られれば、実行します。
そのため、景気が良くなり、中央銀行が政策金利を上げると、一般的に借り入れコストの増加します。その結果、不動産投資収益が悪化します。また、金利が上昇すると、収入に対する返済の割合(返済比率)が悪化し、やがて来る景気の減速とともに、収入の下落や運営コストの急騰により、利益が急落する可能性が高まり、安定運営が難しくなるケースが増えます。
2008年のリーマンショック以降起こったことですが、当時REITを含めた私募ファンドは、借入期間3~5年くらいの融資を多用し、レバレッジの割合を極力高め、比較的短期に数年後の転売を狙っていました。そのため、本来安定的に経営が行えるはずの不動産投資事業であっても、2009年以降不動産自体の価格が急落してしまったため、借入金の完済が行えず、デフォルト状態に陥り、銀行預かり状態になった物件もありました。
現在は、その経験から学び、REITや私募ファンドはレバレッジの比率を50%ぐらいに抑え、安定的な運営を行っています。その他、JREITの決算説明書などを見ると分かりますが、各法人は1.借入期間の長期化、2.不動産市況の波により、物件の売却が思うように行かない場合等を考慮し、返済金額の分散、そして、3.借入金利の急騰を防ぐために、借入金利の固定化を行っています。すなわち、長期借入金や短期借入金、そしてそれぞれを固定金利や変動金利と組み合わせて、不動産投資を行うことで万が一の事態が起きないように、そして投資家へ安定的なリターンが提供できるように、各REITはファイナンス条件の良化に向けた、交渉を銀行などと日々行っています。
ただ、今回のアメリカにおける政策金利の上昇は経済成長の裏返しのため、長期的には賃料や稼働率の上昇が見込め、トータルでの不動産収入が増えると思われています。その結果、アメリカだけでなく、ヨーロッパやオーストラリアのREITの価格はトランプ政権以降安定的に上昇しています。
それを裏付けるように、USREITの2016年の決算をみると、マンションやアパートなどの賃貸住宅、ECで好調な物流施設、基地局、空港、そして有料道路などのインフラ施設、そして、個人向けの倉庫において、収入の良化が見られています。2017年はこれら以外に、良好な経済成長を踏まえた、事務所ビルや商業施設の賃料が上昇する可能性があると判断されています。
一方で、将来のことなのでリスクもあります。例えば、トランプリスク。トランプ大統領は11月の選挙前後から、減税や財政出動によるインフラの改修を掲げています。しかし、具体的な政策はまだ出てきておらず、出てきたとしても公約通り議会を通るのか甚だ疑問です。そのため、『良好な経済成長』が本当にできるのか疑問に思われています。そのため、事務所ビルや商業施設の賃料が上がると予想されていますが、もしこれらが起こらなかったとしても去年同様に、社会的に増加したECの利用増加により、物流施設やITインフラの需要増による基地局など、今後も好調に推移していくものと思われます。
また、USREITはファイナンスリスクの回避は徹底されており、今後市場全体が停滞した場合であっても、新規物件の取得が滞ったり、リファイナンスができずにデフォルトになったりするということは、考えづらいです。
4.配当利回り的に海外REITがJREITよりも人気になっている背景について
長期金利とのスプレッドの比較では海外REITの方が日本のREITよりも優位性がないのに、それらが今も人気なのはドル円などの為替リスクのヘッジだけでなく、タコ足配当を続けながらも毎月キチンと支払われるその高い配当利回りだと思います。
この事は、金融庁からも証券各社に緩く是正に向けた指摘が入っており、また円高の進行などにより、去年から配当金の引き下げが起こっており、次第に海外REITとJREITの利回りの差は目立たなくなり、将来的には無くなっていくと考えています。
そもそもなぜ、タコ足配当が必要なのか?海外REITへの投資を考える時には毎月の配当金だけでなく、将来その投信を売却する時の投資口価格を踏まえた、トータルでのリターンをキチンと確認し、投資を行ってほしいです。
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