
脱・株初心者のための「バリュー投資法のススメ」
この記事のもくじ
はじめに
想定している読者
はじめまして、個人投資家の長友威倫と申します。大好きな株式投資、特にバリュー投資という投資戦略についてご紹介できる機会を頂き、ありがとうございます。この記事は、株式取引をなんとなくはじめて数ヶ月~1年経ったけれど、ステップアップしたい!という方を念頭に書いています。
私は、「稼ぎたいけど、損したらどうしよう」と自問自答するなか、投資家としての第一歩を踏み出す決断をしたみなさまを本当に尊敬しています。
本コラムの目的
株式取引をはじめてみた感想はいかがですか?はじめる前のイメージと比べるといかがですか?既にうまく稼いでいる方もいると思いますし、悩んでいる方もいるかもしれません。
株式投資は10年単位の息の長い勝負なので、最初からうまくいかなくても心配ないです。ただ、できるだけ早く自分の勝ちパターンを見つけて欲しいです。株式投資で成功した人はたくさんいますし、彼らの手法も多種多様です。どの投資家も億単位の収益を上げられています。
私は、どんな投資スタイルでも極めることができれば株式投資で収益を上げられると考えています。同時に、それぞれの投資戦略は別の山に登るようなものだと認識していて、1度に1つの山にしか登っていくことはできないと考えています。
本コラムの目的は、投資戦略を持つことの必要性を理解して頂いた上で、私が指針としているバリュー投資戦略をご紹介して、みなさんの選択肢の一つとして検討して頂くことです。
自己紹介
機関投資家として株式投資に出会う。
私は、仕事を通じて初めて株式投資と出会いました。2006年にキャピタル・グループという米系資産運用会社にアナリストとして入社し、アジアの機械セクターの調査を担当しました。日本では、ファナック(6954)や小松製作所(6301)、三菱重工(7011)など時価総額の大きな企業が調査対象でした。キャピタル・グループでは徹底的な業界・企業調査に基づいた企業価値の算出を求められました。IR担当者はもちろん、経営陣、工場、仕入れ先、顧客、競合他社、業界の専門家などへの取材を通じて会社を多面的に調べていきます。そこまで調べるのかと驚かれるかもしれませんが、運用成績を競う他の運用会社も同じような企業分析をしています。つまり、徹底的に調べないことには競争優位性を維持することができないのです。
個人投資家として投資戦略を模索。バリュー投資に出会う
私は2013年から個人投資家として活動をはじめましたが、最初は機関投資家で培った考え方がなかなか抜けませんでした。つまり、株式投資では優れた調査能力がないと勝てないと思い込んでしまっていたのです。しかし、個人投資家が世界的に展開する機関投資家と同じ調査能力を得ることができるわけがありません。調査能力で勝負することが厳しいとなると、どのように他の投資家に対して競争優位性を確保していけばいいのかという視点から、ありとあらゆる投資本を読みました。そしてバリュー投資という投資戦略に出会い、実践すること3年が過ぎました。不確実性にあふれる市場において少なくとも基本方針が正しい(バリュー投資で長期的に市場に勝つことができる)と信じることができることは、大海に船を漕ぎ出す際に揺らぐことのない北極星を持っていることと同じくらい大切なことです。
運用実績
過去3年間の運用実績は以上の通りです。幸い、誰でも低コストでインデックス投資することができる配当込TOPIXには勝ち越すことができています。もちろん、3年程度の運用実績では頼りないでしょうから、次にバリュー投資の歴史を紹介します。
バリュー投資の世界へようこそ
バリュー投資の基本概念
株式とは何か?
株式とは、会社の一部です。例えば、A社という会社を例に考えてみましょう。A社が設立時に100万円の出資を募ったとします。1株1万円で100人が出資したとすると、この会社には1株持った株主が100人いることになります。それぞれの株主は、A社の1%(1株 / 100株)を保有しているのです。大企業になるほど大量の株式が発行されています。例えば、原発事業による損失で紙面をにぎわせている東芝(6202)の有価証券報告書によると、2016年3月に4,237,602,026株の発行済み株式数がありました。東芝の売買単元は1000株なので、最近の株価200円x 1000株=20万円を支払うことで、東芝の0.000024%を所有していることになるのです。そんなに小さい数を言われても実感が持てないかもしれませんが、株式を買うことは実際の企業を買うことと同じだということを意識してみてください。
普通に買物するように株式を買おう
みなさんは、日々買い物をしている買い物の達人です。例えば鶏肉を買うことを考えてみましょう。同じ鶏肉でも、ブランド地鶏、国産、ブラジル産など品質と価格が違うことを知っています。また、購入場所も近所のスーパー、精肉店、コストコと様々です。曜日によっては鶏肉が値引きになることもあります(私の近所のスーパーでは29日がニクの日)。これらの消費活動を通して何をしているのかというと、価値に対して価格が安いものを買おうとしているのだと思います。鶏肉を買う経験が豊富なみなさんは、頭の中に相場感があるはずです。例えば、「国産鶏の胸肉が100グラム100円なら妥当」だと思っていたとすれば、セールで100グラム50円になっていると喜んで買う事でしょう。
では、鶏肉を会社に置き換えてみましょう。株式市場は、様々な会社の値段がついて提示されている場所です。実績はないけど成長率が高い企業、高成長は望めないが安定した事業実績のある老舗企業、赤字で苦しんでいる企業など、鶏肉に色々な種類や部位があるように一口で会社と言っても同じものは二つとありません。投資家としてみなさんの仕事は、普段の買い物と同じです。株式市場で提示されている価格に対して、十分に価値があると思う企業を買うことなのです。
「価値>価格」という状況を探している場合、普通は価格が下落すると喜びます。例えば鶏肉がセールになっているとちょっと嬉しいですよね。豚肉を買おうと出かけたけど、セールなら鶏肉を買おうかなという話になります。価格が下落するほど需要が増えるのは、経済学の需要曲線の基本です。しかし、会社を売買する場所である株式市場では不思議なことが起こります。下のグラフは、2005年から現在までのTOPIX指数と、2007年から2008年の個人投資家による売買金額の推移です。2007年から2008年にかけて、TOPIX指数は1600から800まで半値になりました。鶏肉の例に戻れば、半額の出血大サービス期間だったわけですが、売買金額をみると投資家の購入金額は特に増えている様子はありません。
出典:kabutan.jp
私は、個人投資家の多くが企業価値について考えていないと思っています。例えば、株式掲示板には、企業価値評価に裏付けされた書き込みが少ないです。セミナーなどで個人投資家同士の会話に聞き耳を立てていますが、企業価値という言葉を聞いたことはありません。企業価値について考えていないと、当然ですが現在の価格が価値に対して上回っているのか下回っているのかも分かりません。このように目をつぶったような状態で投資していると、株価が下落した際に価値と価格が別物であるという日々の買い物では当たり前に理解し実践している事を忘れてしまい、投資するチャンスかもしれないにも関わらず、さらなる株価の下落が怖くなって売ってしまうことになります。是非とも、価値と価格は別物であることを忘れないでください。
バリュー投資の歴史
バリュー投資を確立したのは、1934年にベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドによって書かれた『証券分析』とされています。電話帳のように分厚い『証券分析』の内容を一般向けにかみ砕いて1949年に出版された『賢明なる投資家』とともに、バリュー投資家の聖典と考えられています。これらの本が今でも大学講義で使用されていることは、バリュー投資が歴史の試練を潜り抜けた投資戦略であることの何よりの証拠だと思います。それにしても、つい80年前まで投資の世界では、価値と価格の関係性について明確な指針がなかったことには驚くばかりです。
著名なバリュー投資家
最も有名なバリュー投資家はアメリカのウォーレン・バフェット氏でしょう。お父さんが株式ブローカーをしていたこともあり、11歳の若さから株式投資をはじめます。バフェット氏も、最初は勝てると納得できる投資戦略を求めて右往左往していたところに、グレアム氏とドッド氏による著書を読み、バリュー投資に傾倒します。二人が教鞭をとるコロンビア大学大学院に進学し、バリュー投資の手ほどきを受けます。
バフェット氏はファンドの運用と、バークシャー・ハサウェイ社の経営を通じて、60年以上の長期間に渡って、年率20%以上のという複利リターンを上げることに成功しています。複利効果は凄まじく、仮に1万円を年率20%で複利運用できたとしたら、60年後には5.6億円以上になっています。4月5日現在のバークシャー・ハサウェイ社の時価総額は約45兆円で、アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾンに次いで世界5番目の時価総額です。この巨大企業を作り上げた基本戦略が、バリュー投資なのです。
バフェット氏は、「価値に対して大幅に安い価格で資産を買う」というシンプルな投資戦略を60年以上続けた結果をみせてくれます。私は、ある結果を得るためにはそれを既に達成している人の真似をするのが近道だと思っています。私は長期的に高い運用成績を達成したいのですが、それを高い確率で達成している投資戦略を探していくと、バリュー投資へたどり着くのです。
その他の著名バリュー投資家
ウォーレン・バフェット氏のほかにも、参考までに高い運用実績を残しているバリュー投資家を5名載せました。成功しているバリュー投資家の特徴として、後進を育てようという気持ちが強いように感じます。5人とも素晴らしい著書を書いていますので、是非とも手に取ってみてください。
- チャーリー・マンガ―
『完全なる投資家の頭の中』 - モニシュ・パブライ
『ダンドー 低リスク・高リターンのインド式テクニック』 - ハワード・マークス
『投資でいちばん大切な20の教え』 - ジョン・テンプルトン
『テンプルトン卿の流儀』 - ジョエル・グリーンブラット
『株デビューする前に知っておくべき「魔法の公式」』
3つのバリュー投資方法
バリュー投資は、(1)企業価値を算出すること、(2)その企業価値よりも大幅に安い値段で買う事、という2つに要約できます。企業のことを「法人」と呼ぶように、企業と個人の価値評価方法はなんら変わりありません。例えば、こういう質問を考えてみてください。「Aさんの所有物すべてと、生涯に稼ぐ収入から支出を引いた余剰資金すべてをいくらで買いますか?」。これは、「B社の所有物すべてと、会社が存続している間に稼ぐ売上から経費を引いた利益すべてをいくらで買いますか」という質問と全く同じなのです。
ここから、3つのバリュー投資手法を紹介していきます。
- 統計的アプローチ
- 質価値アプローチ(資産価値)
- 本質価値アプローチ(収益価値)
統計的アプローチ
企業価値評価の考え方
1つ目のバリュー投資手法は最も簡便なもので、株式市場において相対的に安いと評価されている企業の株式を勝っていくという手法です。
PERとPBR
相対的な価値評価として広く利用されているのが、PERとPBRという2つの指標です。四季報やヤフーファイナンスなどでも簡単に確認することができます。これらは、何を表しているのか、復習したいと思います。
PERは株価収益率と呼ばれていて、株価を一株あたり利益で割ることで求められます。例えば、今期一株あたり100円の利益を上げることが予想されている企業が株価1000円で取引されていれば、PERは10倍です。
仮にA社のPERが10倍であれば、現在の利益水準が続けば、10年で投資金額を回収できるということです。B社のPER20倍であれば、現在の利益水準が続けば、投資金額の回収に20年かかるということです。この2社を比べてB社に投資する人は、利益が成長することを見越している訳です。
株式の購入価格に対する利益イールド(EPS / 購入価格)を考えると分かりやすいです。上の例では、A社という利益成長が見込めない会社をPER10倍で買ったとします。毎年の利益イールドは10%(100円 / 1000円)です。次に、B社は利益が年率10%で成長すると考えた投資家がPER20倍で買いました。1年目の利益イールドは5%と見劣りしますが、利益が成長するにつれて利益イールドは高まり、9年目にはついに11%とA社を逆転します。
出典:日経新聞
A社とB社があれば、あなたはどちらを買うでしょうか?バリュー投資家の多くはA社と答えると思います。まず、個人投資家の平均株式保有年数が1年足らずという状況の中で、あなたはB社を9年間以上も保有できますか?さらに、9年後の企業の収益力を正確にイメージできるでしょうか?もし、競争激化などで成長率を読み間違えてしまい、下のように4年目から成長率が低下すると、B社にPER20倍払った投資家は10年経ってもA社の利益イールドを上回ることができません。高いPERで取引される株を買って儲からないわけではありませんが、高いPERに見合うだけの競争優位性の維持や成長率に自信を持っていなくてはなりません。
PBRは純資産価値と表現されます。例えば個人を例にとると、資産としては現預金や自宅、車を持っているでしょうし、負債としてローンを抱えています。
Aさんの資産を全て現金化すると3900万になり、すべてのローンを返済しても1850万円が残ります。このことが分かっている状況で、Aさんの所有物すべてと収入から支出を引いた余剰資金の生涯合計を1500万円で買わないかと提案されたらどう思いますか?もしかすると、Aさんは今後働けなくなるかもしれません。しかし、所有物だけでも1500万を超えているので、損失を受ける可能性は少ないと考えられます。
これと同じ考え方が、企業についても成り立ちます。
B社のバランスシートが上の通りだったとします。B社が事業を中止して、資産を全て売却したとすると、500億円が手元に残る計算になります。こうした企業が例えば300億(PBR 0.6倍 = 300億/ 500億)で売られていたとすれば、仮にPERの算出に必要となる今後の利益水準を見誤ったとしても、資産価値が損失の可能性を軽減してくれるのです。
その他、比較調査紹介
PERとPBRが高い企業へ投資して成功するには、長期的な企業の競争力や収益水準を正しく見積もる必要があります。企業の将来は分からないから、ひたすらPERとPBRが低い企業へ投資しようというのが、統計学的バリュー投資の手法です。日本には、残念ながら低PERや低PBR銘柄への投資を続けた場合のリターンについてのバックテストが少ないです。しかし、バリュー投資が生まれたアメリカでは学者も巻き込んで大規模な調査が行われてきました。
出典:Tweedy, Browne Company LLC “What has worked in investing”
Tweedy, Browne社というバリュー投資会社による1966年から1984年にわたる調査では、市場にある全ての会社をPERとPBR順に並べ、低い順に10のグループに分けました。約3700社が上場している日本であれば、各グループに370社が入ります。その370社をただ機械的に購入していくだけで、年率14%というリターンを達成しています。さらに、注目すべきは高PER銘柄への機械的な投資に対して年率8%以上も勝っている点です。つまり、株式市場では慢性的に低PER・PBR銘柄が割安に放置され、逆に高PER・PBR銘柄が割高に取引されているのです。
Russel野村、インデックス別月次リターン(配当含む)
出所:野村証券
Russel野村インデックスには、日本に上場している全株式をPBRの高低で2分割したTotal Market Valueと、Total Market Growthというサブ・インデックスがあります。1979年からの40年近いリターンを見ると、低PBRへ投資する戦略の有効性が感じられます。日本の株式市場はバブルの高値を抜けないとよく言われますが、Total Market Value指数においては、なんとバブル期の水準を回復しているのです。
ここで不思議なのは、「なぜ投資家は高PER銘柄への投資が不利だと検証されているにも関わらず、高PER銘柄への投資を続けてしまうのか?」ということです。ウォーレン・バフェット氏は、その要因を人間の精神状態に求めています。高PER銘柄は時代をときめく会社です。例えば、米国のEC通販大手のAmazon社のPERは170倍を超えています。私には全く理解できない水準ですが、機関投資家の運用者であればAmazonに投資して失敗しても他にも同じ間違いをした人が多いからクビにならないが、地味な低PER戦略でリターンが悪かったらすぐにやり玉に挙げられることは想像に難くありません。個人投資家も、「俺はAmazonに投資してるんだ」と自慢したくなるのでしょうか。
成長や流行りものが大好きな人間の心は、残念ながら投資信託の消費行動にも表れています。これまでの調査を見れば、バリュー投資の優位性は明らかだと思います。しかし、投資信託の設定本数や純資産を見ると、グロース系の方が人気があります。「割安日本株ファンド」と「日本成長株ファンド」があったら、素人は名前の響きが良さそうな後者を選んでしまうのかもしれません。残念ながら運用会社のほとんどは顧客の長期的資産形成を考えていませんので、売れる商品を供給してしまいます。何でも売ってしまう運用会社が問題なのか、流行りものを買ってしまう金融リテラシーに欠ける消費者が問題なのか、これは典型的な鶏と卵問題だなと感じます。
具体的なスクリーニング方法
PERやPBRのスクリーニングがインターネット上で無料で利用できるのも利点です。下には株マップ.comからのスクリーニング結果を載せました。なかなか聞いたことない会社ばかりだと思いますが、それがいいのです。「こんな聞いたこともない会社、大丈夫か?」と思うということは、ほかの投資家も同じように思っています。そうでなければ、PBR0.5倍を割ることなどありません。投資の極意は「人の行く裏に道あり花の山」です。既に多くの人が知っていることに追従しても稼げる可能性は低いと思います。
出典:株マップ.com
本質価値アプローチ(資産価値)
ネットネット清算価値
統計学的アプローチは会社のことは一切調べずに、機械的にPERとPBRの安い企業を買っていく手法です。それに対して、本質価値アプローチ(資産価値)では、バランスシートを使って具体的に企業の価値を算出していきます。
ネットネットという手法は、バリュー投資を確立したベンジャミン・グレアムが好んで使った指標です。グレアムは大恐慌で自己破産した経験をもとに、企業の収益はあてにせず、企業を解体した時の清算価値を元に投資を行っていました。
ネットネット清算価値 =(流動資産 - 負債)
という単純なものです。バランスシート上の流動資産とは1年以内に換金できる資産という意味です。土地や建物など売れるかも分からないものの価値はゼロと評価して、換金性の高い流動資産から負債全額を差し引いたものをネットネット清算価値と呼びます。グレアムはまだ不安だったようで、時価総額がネットネット清算価値の2/3以下の会社にしか投資をしなかったそうです。
NCAV清算価値
NCAV清算価値は、ネットネット清算価値をさらに厳密にしたものです。企業によっては、流動資産に含まれる売掛金や在庫をバランスシート上に記載された価格で売却できるとは限りません。そこで、売掛金は75%で評価し、在庫は50%で評価し、その他の流動資産は考慮しません。
NCAV清算価値 = (現預金+短期有価証券 + 売掛金 x 75% + 在庫 x 50%)― 負債
NCAV清算価値は非常に厳しく見積もった清算価値なので、時価総額がNCAV清算価値より安いときは、買い時と言えます。
具体例
株価が清算価値を下回ることなんてあるのか、つまりは株式市場がそんな滅茶苦茶な値付けをすることがあるのかと思われるかもしれませんが、そんな不思議なことが起きているのが株式市場です。
ツインバード(6897)
小物家電製品や健康機器を製造販売している会社です。廉価版家電製品としてAmazonなどでも多数販売されています。
ツインバードのバランスシートは好況時に大きくなり、不況時に小さくなっています。不況時には資産売却を進めて負債の圧縮を進めているからです。さて、グレアム氏の購入推奨価格は、ネットネット清算価値 x 2/3でした。2007年3月から2016年3月までの10年間を振り返ってみると、2013年3月~2014年3月の間に購入チャンスがあったことが分かります。より厳しい評価であるNCAV清算価値を株価が下回ったことは、過去10年間では1度もありませんでした。
ネットネット清算価値のx 2/3で買い、清算価値に戻ったときに売却することで50%の利益を得ることができます。ツインバードの例から分かるように、チャンスは滅多に訪れません。数少ないチャンスを生かすためには、平時から投資戦略の確立と、心と資金の準備が必要です。バリュー投資家は滅多に売買を行わないので暇だと思われるのですが、よい投資をするための下準備は手間がかかるというのが私の実感です。
本質価値アプローチ(収益価値アプローチ)
利益ではなくフリー・キャッシュ・フローを重視
バリュー投資の3つ目アプローチでは、企業価値を収益に基づいて算出することを目指します。企業の経済的側面だけに目を向ければ、投資家が期待するのは企業がもたらす余剰キャッシュです。余剰キャッシュとは別名、フリー・キャッシュフロー(Free Cash Flow: FCF)と呼ばれ、次の式で求められます。
FCF = 税引後営業利益+償却費-設備投資-運転資本増加額
例えば、A社という安定した事業を営んでいる企業があったとします。上の図のように、FCFが年間9~11億円だった場合、A社の企業価値をどのように評価しますか?
FCFに基づく企業価値評価はディカウントキャッシュフロー法(Discounted Cash Flow method: DCF法)と呼ばれ、大学やビジネススクールで講義される内容です。DCF法についての詳細な説明については、専門書を紐解いてください。ニューヨーク大学のダモダラン教授の著書や動画がお薦めです。
アスワス・ダモダラン(ニューヨーク大学教授)
『資産価値測定総論』
簡易的なFCFからの企業価値評価をするためには、私は長期的な株式リターンが8%であることを出発点にしています。A社のようにFCFが年間平均10億円である場合の企業価値は、10億 / 8% = 125億円と推定します。そして、私はFCF予想が実際のバランスシートに基づく資産価値評価に比べて間違いやすいという点を加味して、本質価値より50%以上割安な価格で購入することにしています。A社場合は、125億 / 2 = 62.5億円以下で購入すれば、購入価格に対するFCF利回りは10億 / 62.5億 = 16%となり十分に割安と考えます。
具体例
DCF法を使うためには、長期的なFCF予測に自信を持てることが前提になります。私は、長期的に安定したFCFを期待できるビジネスモデルは限られていると考えています。長期的なFCFが予想できない典型例として設備投資関連産業があります。景気変動によって、売上、利益、そして当然FCFが大きく変動するため、今後5年間ですら見通すことは難しいです。
日本電技(1723)
ビルに入っている空調設備の工事とメンテナンスを行っています。一度納入されると、数十年単位でメンテナンスが発生する安定した事業です。過去15年間の売上高は非常に安定しており、既存設備へのメンテナンス工事の比率を高めることで利益率の改善に成功している優良企業です。
日本電技は製造業ではないので、設備投資は重要ではありません。売上が横ばいであることから、減価償却費=設備投資、かつ運転資本にも変動がないと仮定すると、
FCF = 税引後営業利益 となります。
事業内容から需要が急減することは考えられません。さらに、既設工事の比率が高まっていく確率も高いので、将来のFCF水準は少なくとも現在の水準を維持できると考えられます。そこで、年間FCF12億 / 8% = 150億円 の企業価値と試算できます。これは、一株あたり1850円です。
日本電技の株価(月足)
出典:kabutan.jp
株価推移と比べてみると、現在の株価水準は1850円を大きく超えています。一方、2014年初めには、既設工事の比率増加による増益トレンドが確認できていたにも関わらず、株価は1000円近辺に留まっていました。私は、収益価値に基づく企業価値算出に対して50%以上割安であると考え、購入しました。
まとめ
なぜバリュー投資は広まらないのか?
バリュー投資は奥深い領域ですが、その基本は3点に集約できます。
- 普段の買い物で実践しているように、価格と価値は別物である
- 企業には資産価値や収益価値に基づく適正価格が存在する
- 適正価格より大幅に割安な価格で投資する
バリュー投資の優位性を納得して頂き、みなさまの資産運用に活かして頂ければ、これほどの喜びはありません。バリュー投資は地味です。人工知能(AI)や自動運転など、時流に乗るテーマ株のバリュエーションは高く、バリュー投資の価値評価に基づいて投資できることはほとんどありません。しかし、地味で人気がない領域に目をむけるからこそ、掘り出し物があるのだと思います。
最大の敵は自分自身
私の経験上、バリュー投資の実践における最大の敵は自分自身です。バリュー投資の観点から投資できるチャンスは限られています。その数少ないチャンスで相応のリスクが取れる(例えば、運用資産の10%をつぎ込めるか)ように準備しておくことが必要不可欠です。自分の投資基準を超えて株価が上昇を続けるのを何もせず眺めているのは歯がゆいものですが、投資基準を曲げたときはたいてい失敗するというのが実感です。
利益の先にあるもの
本コラムの冒頭に述べたように、私はどんな投資戦略でもそれを極めれば市場を上回るリターンを得ることができると考えていますし、実際に様々な投資戦略で成功を収めた個人投資家の方々にお会いしたこともあります。彼らに共通しているのは自分自身を良く知り、自分に合った勝ちパターンを確立していることです。仮に他人が別の投資方法で大きく稼いでも「良かったね!」と祝うことができ、自分の勝負する土俵ではなければ無駄な羨ましさを感じない点は人間として素晴らしいなと思います。
みなさんは何のために投資するのでしょうか?個人資産が増えることで将来への不安が軽減したり、家族によりよい生活を提供することができるかもしれません。しかし、私が投資をしてよかったと思う点は、多種多様な企業が存在する資本主義社会へのありがたさを感じることができるようになったことであり、このような情報発信を通じて人的ネットワークが広がる喜びを実感できるようになったことです。
私は、自分の可能性を大きく広げてくれた投資の世界が大好きです。みなさまの、経済的に豊かで幸せな将来を願っています。
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