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半歩先を読むテクニカル分析

半歩先を読むテクニカル分析

前回は、テクニカル分析にまつわるエピソードをご紹介しました。今回は、具体的なテクニカル分析の第一歩として、トレンドを中心に考えてみます。

トレンドとは

トレンドとは

相場の解説などで、トレンドという言葉がよく使われます。辞書で見ると、トレンド(Trend)は、「傾向」あるいは「趨勢」のこと。市場で使うときには、株価の流れといった意味にとらえられています。「相場にトレンドがある」とか、「トレンドに乗る」と言った表現がなされます。ということで、相場を見るうえでトレンドは重要ですが、意外にトレンドそのものは漠然としています。言い換えれば、「トレンドは何か?」と問われれば、これを即答できる人は多くありません。

私が経験的に妥当だなと考えているトレンドの定義は、「継続的な価格の上昇、または下降」です。

取引時間中の株価を見ると、止まっているか、上げ下げしています。また1カ月間の株価を見れば、株価が前日と変わらない日もありますが、上がった日、下げた日もたくさんあります。そのなかで、トレンドはどれでしょうか。

株価が上がっても、あるいは下がっても、それだけではトレンドとは言いません。株価が上昇した日の翌日は下落、あるいは株価の下落した日の翌日に上昇することがあります。
グラフは、そのことをイメージにしてみました。株価は日々アップとダウンを繰り返しています。しかし、ここには、トレンドは見いだせません。

トレンドがない株価の動き

では、2日続けて株価が上がればトレンドでしょうか。確かに2日続伸はトレンドのようにも見えますが、これだけを信じて買いを入れるのは乱暴です。というのも、2日続伸したというだけでは、株価が今後継続して上昇する根拠としては不十分だからです。

結局、トレンドを考えるとき、「継続」の可能性をどのように見極めるかが大事です。そして、その見極め方には、さまざまな方法があります。

例えば「継続」を、移動平均線で確認する方法もあります。ゴールデンクロス(移動平均線がより長期の移動平均線を上回る)は、その一つの方法と言えます。これは、有用ですが、もっと簡便で、応用範囲の広い方法もあります。これを今回はご説明します。

上昇トレンドと下降トレンドの定義

トレンドを判定する簡便な方法は、次の通りです。

  • (上昇トレンド)安値が前回の安値を上回り、高値が前回の高値を上回れば、
             上昇トレンドを推定
  • (下降トレンド)高値が前回の高値を下回り、安値が前回の安値を下回れば、
             下降トレンドを推定

言葉でみるとややこしいですが、グラフで見ると、次の通りシンプルです。

上昇トレンドの考え方

上昇トレンドの考え方

グラフは、時間とともに、株価が○a、○b、○c、○dと動いたことを示します。まず、株価は○aの安値から○bまで上昇しましたが、この段階では上昇トレンドとは言えません。

しかし、つぎの下落より、上昇トレンドになる可能性が出てきます。株価が○cで下げ止まれば、これは前回の安値○aを下回っていないからです。そして、○dまで上昇して、前回の高値○bを上回った時点で、株価が上昇トレンドにあると推定します。この時点で、安値は前回の安値を上回り、高値は前回の高値を上回ったからです。すなわち、安値と高値の両方が切り上がりました。この状況をもって、株価の動きが上昇方向に継続している、すなわち上昇トレンドと推定したのです。

ここで、上昇トレンドが存在するというのではなく、「推定する」としたのは、本当に上昇トレンドがあるかどうかは、事後的にしか分からないからです。言い換えれば、この方法は、上昇トレンドの可能性を示すにとどまります。

これは、いい加減だなと感じられるかもしれません。しかし、間違いなく上昇トレンドがあると確認できる段階になれば、株価はすでに大きく上昇しています。その時点で、株式を買うのは、多くの場合、リスクとリターンのバランスが悪いでしょう。すなわち、大きな値下がりリスクを負担して、リターン(値上がり)の余地は大きくない状況になっていると考えられます。言い換えれば、トレンドの確認に100%を求めると、高値つかみする危険があるということです。

これに対して、先ほどご紹介した方法は、このような高値つかみを避けることができます。もちろん、それでめでたしということにはなりません。高値つかみはないにしても、トレンドの「だまし」に会う可能性があるからです。

「だまし」というのは、テクニカル分析で使われる用語の一つ。ある株価分析に対して、例外的な結果が現れたということです。トレンドが発生したと判断したが、事後的に見ると、トレンドはなかったということを「だまし」と言います。

したがって、ご紹介した方法では、トレンドが推定されるとしても、トレンドがあると断定はできません。高値つかみは避けられ一方で、だましに会う可能性があるということを認識しておく必要があります。

トレンドの定義の使い方

そうであるなら、このトレンド分析は意味がないと思われるかもしれません。とりわけ、テクニカル分析により、相場の動きを当てようとする人にとっては物足らないでしょう。しかし、実際に取引をする現場では、トレンドが発生したかもしれないことを認識するだけで、大きなアドバンテージがあります。例えば、このようにしてトレンドを判断すると決めておくだけで、投資の判断に迷いが少なくなります。

まず、先ほどの上昇トレンドのグラフにおいて、○bの状況はまだ上昇トレンドではないと判断するだけで、衝動的な買いを避けることができます。つぎに、○cの段階では、様子見になる人が多いでしょう。株価が上昇の後に下落したことで、どのように対処するかが難しいと感じてしまうからです。

しかし、仮に株価が今後、○bを越えれば上昇トレンドになるかもしれないという知識を持っていれば、○cの時点で、次の上昇トレンドに備えることができます。それは他の投資家よりも、「一歩先」とまでは言わなくても、少なくとも「半歩先」を読んでいることになります。

そして、○dの状況になれば、上昇トレンドが想定されますから、すぐに買いを入れることもできます。もちろん、「だまし」を避けるために、他の指標を合わせて確認しながら、最終的な買いの決断をすることもあるでしょう。いずれにしても、このトレンドの定義を押さえるだけで、相場の流れを読みながら、適切な投資判断をするための基礎ができます。

下降トレンドの確認

下降トレンド

今度は、下落トレンドでも確認してみます。グラフの○eまで上昇した株価は、下落に転じると○fをつけます。この時にはまだ、下落トレンドとは言いません。上昇トレンドのなかで、一時的に下げた(調整)の可能性もあります。

確かに、その後は○fを底値として上昇します。しかし、その反発も○gで止まります。この時点で、下落トレンドへの変化に備えることができます。そして、株価が○hとなり、○fを下回った時点で、下降トレンドが開始したと推定します。高値が前回の高値を下回り、安値が前回の安値を下回ったからです。すなわち、高値が切り下がり、安値が切り下がりました。

このとき、以前から保有していた株式があったら、売却することもあり得ます。あるいは、株を買うかどうかを考えていたら、いったんは買いを中止して、下降トレンドが終わるのを待つという判断につながります。

利益確定の方法として

利益確定の方法として

このトレンドの判定方法は、一分足のチャートでも、週足チャートでも使えます。また、株式相場、先物相場、また外国為替相場など対象を選びません。そして、何より良いのは単純で、まぎれがないからです。終値の折れ線グラフを見るだけですから。当然、判断するのに時間はかかりません。それだけに、この判定方法は実践的です。十分なデータが使えないケースや、時間がない場合でも対応できるからです。

さらに、投資の利益を伸ばすために応用できます。先述の通り、保有株の売却のタイミングを計るために使うならば、下降トレンドを確認した時が候補となります。この方法は、目標株価を決めて売却するよりも、結果が良くなる場合があります。

というのも、株価が大きく上昇するケースでは、目標株価で売却したのちに、株価が一段と上昇することが少なくないからです。これを避けるために、このトレンド判定が使えます。目標株価を定めないで、株価が下降トレンドに変わるまで株式を持ち続ければよいのです。もちろん最高値では売れません。しかし、最高値で売ることをあきらめれば、その代わりとして上昇トレンドについていくことはできます。

相場の徒然:予想ではないテクニカル分析

本来、テクニカル分析は、相場の先々を見通すための技術です。今日の株価、1週間後の株価、あるいは1年後の株価について、予想を立てるのに使うものです。ただ、私自身は、相場の予想よりも、売買の判断の方に使うケースの方が多かったですね。本文でも書きましたトレンドの判定とか、抵抗線や支持線を使った売買などです。それが絶対的に有効な方法かどうかは断言できませんが、少なくとも直観頼りの売買よりは精度が高まります。

また、投資において、これまでご説明してきた企業分析やファンダメンタルズを重視するとしても、最終的には株式の価格に、ファンダメンタルズが反映されていかなければなりません。割安株を買っても、ずっと割安のままならば利益があがらないからです。

そこで、テクニカル的な知識が加われば、単に割安というだけでなく、上昇トレンドが確認できたタイミングで買いを入れるといった工夫もできます。ということで、テクニカル分析は、「当たる/当たらない」といった観点とは別の観点の価値も大きいのです。すなわち、予測の精度を高めたり、実際の売買の際の技術を高めたり、あるいは投資の際の迷いを解消したりといった、「予想ではないテクニカル分析」も大いに注目されます。

むさし証券チーフストラテジスト、北海道大学新渡戸カレッジ・フェロー。北海道大学を卒業後、山種証券(現SMBCフレンド証券)に入社。エクイティ・デリバティブ取引のディーラーとなり、その後、世界最大の穀物商社カーギルでの日本株運用部長、みずほ証券エクイティ部のトレーディング担当部長などを歴任。一時、ベンチャー企業の立ち上げに参画し、上場を果たした。さらに、アジア中心に海外勤務を経て現職。北大でもグローバル人材の育成を行っている。法政大学経済学修士、日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会正会員。著書に、「デイトレード入門」「株式先物入門」「FX入門」「初めての海外個人投資」(いずれも日本経済新聞出版社刊の日経文庫)など。
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