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株主間合意の拘束力(後編)

株主間合意の拘束力(後編)

前編では株主間の合意に反して議決権を行使しなかった場合などに、損害賠償請求できるか、裁判になった事案を検討しました。

そもそも会社法は、株主間の組織・運営に関する取り決めを定款の形式で定めることを予定していますが、当然、いろいろな場面で、株主間において約束事をすることもあります。

現在、株主間合意は、会社法の趣旨に反しない限り、原則として有効であり、仮に株主が株主間合意に反して会社に対し、株主としての権利行使をしたとしても、会社との関係では適法有効な権利行使であって、単に合意の相手方に対する債務不履行責任が発生するにすぎないと解されています。

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議決権拘束契約の有効姓

議決権拘束契約の有効姓

そうした株主間合意の中には、会社における株主の権利行使、例えば、取締役選任議案における議決権行使の内容、具体的には、各株主の推薦する人物を取締役に選任することを相互に約束することが、ジョイントベンチャーなどにおいては一般に行われています。

このような合意は、「議決権拘束契約」と呼ばれ、かつては、議決権の行使が株主の自由意思に基づいて行われなければ、株主の意思を会社経営に反映することができないことから、商法は議決権拘束契約を予定しておらず、かかる合意は無効であるとの見解もありました。

しかしながら、現在では、議決権拘束契約の有用性や必要性が一般に肯認されていることもあって、議決権拘束契約も、通常の株主間合意と同様に、それ自体は有効なものと解されています。

前編で確認した東京高裁の事件においても、一審地裁判決は、取締役の選任を株主総会の専決事項とする商法の趣旨に反するとして議決権拘束契約を無効と判断しましたが、二審高裁判決はこれを覆し、「株主が多数の賛成を得るためにほかの株主に働きかけて…(議決権行使についての)合意をすることは、何らこれを不当視すべきものではなく、これが商法の精神にもとるものとはいえない」と判示しています。

議決権拘束契約の効力

議決権拘束契約の効力

議決権拘束契約が有効であるとしても、その拘束力の範囲や違反した場合の効力についても解釈に委ねられています。

前編で確認した東京高裁の判決では、18年間の長期にわたって、株主の指定する取締役に一定の報酬を支払う旨の決議を行う趣旨の合意について、「議決権行使に関する過度の拘束」であるとして、10年を相当の期間とし、その期間の経過後の契約の拘束力を否定しました。

この裁判例に関しては、「10年」の根拠が無いとして批判する論者も多いですが、やはり時間の経過の中で事情が変化する中、合意の前提事実にいかなる事情変更があっても拘束力が存続するとすることには違和感があります。

また、同東京高裁判決は、株主2名が、それぞれ自分の近親者を取締役に就任させ、一定期間報酬を支給する旨の合意について、合意の効力を有効としながら、合意に反して取締役に就任できなかった近親者からの損害賠償請求について、「合意の当事者ではない」「したがって合意により期待権も請求権も生じない」として、その請求を棄却しました。

この点に対しても、かかる合意を「第三者のためにする合意」と解釈すれば、契約が有効である以上、近親者による損害賠償請求も認容されるのが論理必然であるとの批判があり、高裁の判断の「すわりの良さ」を好意的に受け止める見方も強い一方、論理的な一貫性がないとの批判もあるところです。

もっとも、かねて申し上げてきた通り、裁判所というのは、「すわりの良さ」のために多少の論理性を犠牲にすることはよくあることですので、私自身は全く違和感がなく、むしろ、会社側代理人の腕の良さが光る事件だと理解しております。

八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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