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複数議決権株式(後編)

複数議決権株式(後編)

米国では「デュアル・クラス」と呼ばれる資本政策が多くの会社で採用されています。「A普通株式」には1株1議決権を割り当て、「B普通株式」には1株10議決権を割り当てることにより、経営陣が実質的には1株当たり複数の議決権を保有することで、会社の支配権を維持する仕組みですが、日本では株主平等の原則により、「普通株式」の枠内で議決権に差異を設けることはできないと解されています。

ところが平成26年、CYBERDYNE(7779・東マ)が「単元株」制度を使って、実質的に複数議決権株式を実現し上場するに至りました。

複数議決権・経済的価値平等

複数議決権・経済的価値平等

まず同社は、普通株式の単元株式数を100株、B種類株式の単元株式数を10株と定め、B種類株式を経営者とその資産管理団体が保有することとしました。

また、普通株式の株主も、B種類株式の株主も、すべての事項について株主総会において議決権を行使することができる、さらに、「剰余金の配当」「残余財産の分配」については、普通株式もB種類株式も同順位かつ同額で行われると規定しましたので、議決権の個数が異なるだけで、それ以外の株式の経済的価値は全く同じになるように設計されました。

B種類株式の譲渡制限

B種類株式の譲渡制限

同社は、「議決権の少ない」株式すなわち、普通株式のみを上場させ、上場させないB種類株式には譲渡制限を付け、B種類株式の株主間以外での譲渡を原則禁止しました。

上場直後の発行済み株式数では、普通株64%に対してB種類株式が36%となった一方、議決権数では普通株15%に対してB種類株式は85%となり、上場したにもかかわらず、経営者が議決権の圧倒的多数を掌握する状況を作り出すことに成功しました。

このように複数議決権種類株式は、通常より少ない出資割合で会社の支配権を維持することを可能にするスキームだといえます。

ブレークスルー条項とサンセット条項

ブレークスルー条項とサンセット条項

もっとも、複数議決権種類株式の導入には負の側面があります。事業の低迷が続いている場合など、普通の上場企業であれば株主の圧力により経営者の交替が起こったり、経営改革に対する圧力がかかるところ、経営者が支配権を維持し続けることが可能となり、株主によるけん制が効かない可能性があります。

また、複数議決権種類株式は、1株1議決権の原則、すなわち、出資によるリスク負担割合に比例した議決権が付与される状態をゆがめます。

種類株式の株主は、出資によるリスク負担割合以上の議決権数を取得しているため、リスク負担割合以上の議決権を所持した一部の株主に会社の意思決定を委ねることにより、そのほかの株主が、リスク負担割合以上のリスクを被る可能性があります。

買収者が一定数の株式数を取得したなどの場合

そこで、経産省の企業価値研究会では、「ブレークスルー条項」、すなわち、買収者が一定数の株式数を取得したなどの場合には、自動的に複数議決権種類株式の仕組みが解消する仕組みや、「サンセット条項」、すなわち、一定期間経過後に株主総会の特別決議など(当該決議については1株1議決権)で仕組みの解消について可決されたり、あらかじめ定めた一定の条件が成就したりした場合に、仕組みが解消される仕組みを設定することが望ましいとしています。

同社では、TOB(株式公開買い付け)により同社の株式が4分の3以上を買収したときには、B種類株式の全部を普通株式に転換する旨のブレークスルー条項、および、経営者が退任した場合には株主意思の確認手続きを行い、3分の2以上の賛成があれば、B種類株式の全部を普通株式に転換する旨のサンセット条項を設けています。

以上の通り、複数議決権種類株式は、経営者に支配権維持というメリットを与えるのと引き換えに、株主による健全なガバナンスを否定することになりますので、上場企業においては、会社経営における代表者の重要性と、諸条項の設定によるガバナンス回復措置を慎重に検討する必要があります。

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八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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