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全体相場のシナリオを考える

先週のコラムではPBR(株価純資産倍率)が中長期投資に役立ちそうだということ、またPER(株価収益率)の実践的な使い方についてご説明しました。今週は、そのPERの応用範囲を広げて、市場全体の先行き見通しを検討します。そのうえで、そもそもPERの拡大縮小はなぜ起こるのかも考えてみます。

PERで先行きを想定

PERで先行きを想定

前回は、PERを使えば、将来において想定される株価、あるいは目標株価を求めることができることをお話しました。今回は、相場全体の展開を読むためにPERを使ってみます。具体的には、相場全体を表すTOPIXを一つの株式とみなし、PERの式を使うことで、想定される利益から妥当なTOPIXの水準を求めます。

(図1)TOPIXの増益率とPERによる想定株価

上の表(図1)は、TOPIXの将来の増益率(減益率)と、それに対応したTOPIXの水準を示しています。2018年3月期の利益が前年比で3%増加する一方、PERが今よりも少し上昇して18倍になるとしたら、TOPIXはいくらが妥当なのかを示しています。これを見ることで、相場の先行きを具体的に想定することができます。

想定株価表の作り方

想定株価表の作り方

 上の表を眺めていただくだけでも結構ですが、より深く理解したい方のために、この表の作り方を次に示します。

(1)まず、TOPIXのEPS(一株当たり利益)の予想値を求めます。その際に、2017年3月18日の時点で次のことが分かっています。
 TOPIXの終値:1565.85ポイント・・・①
 TOPIXの予想PER: 17.06倍・・・②
どちらも、日本経済新聞(3月18日付け)に掲載されています。TOPIXの予想PERは、株式欄に掲載された「 東証1部全銘柄」の予想PERを用いています。なお、TOPIXは、東京証券取引所第1部に上場されている全銘柄を対象にした株価指数です

そこで、次の予想PERの式に、数値①と②を代入すると、
 予想PER=株価/予想EPS
 17.06=1565.85/予想EPS
 ですから、
 予想EPS=1565.85/17.06=91.8ポイント
 なお、この予想EPSは、2017年3月期決算のTOPIXの予想EPSとなります。予想PERが、同決算期に関するものだからです。

(2)つぎに、いま求めた2017年3月期末の数値(91.8ポイント)を、表の上部中央に、「現状」として記載します。そのうえで、「現状」に対して利益を増減したものを、2018年3月期のEPSの例として記載していきます。EPSが2017年3月比で3%増加する場合、
91.8×(1+0.03)=94.5
という計算で、EPSは94.5ポイントとなります。以下、6%増、9%増、12%増となった場合のEPSを計算して、同じ行に並べます。逆に、3%減となった場合を想定し、
  91.8×(1-0.03)=89.0
と計算して、89.0ポイントを、「現状」の左隣に記載します。順次6%減、9%減、12%減として、同じ行に並べます。

(3)最後に、左側の列に、PERを並べます。15.0倍から19.0倍まで1倍刻みで示しました。ただし、現状のPERである17.1倍も表に載せています。

(4)ここまで準備をして、最後にPERの式を使って、表のマス目を埋めていきます。
PER=株価/EPS
を変換して、
株価=PER/EPS
とします。表の上部に記載されたEPSと、表の左に記載されたPERが交差したところに、対応する株価(TOPIX)を計算して記載します。
たとえば、2018年3月期は6%増益で、PERが18.0倍ならば、TOPIXは1751ポイントが想定されます。これは、現在の株価(1565.85ポイン)に対して、11.8%上昇することになります。

NT倍率で日経平均株価知る

NT倍率で日経平均株価知る

さらに、TOPIXに対応する日経平均株価も求めてみます。ここでは、日経平均株価とTOPIXの比率を示すNT倍率という数値を用います。式は次の通りです。

NT倍率=日経平均株価/TOPIX
3月17日現在のNT倍率は、
NT倍率=19521.59/1565.85=12.47(倍)
上の式から、「日経平均株価=TOPIX×NT倍率」となりますから、この式を使って、TOPIXの表を日経平均株価の表に移し替えます。

(図2)TOPIXに対応する日経平均株価

この表(図2)を見ると、たとえば、日本株(TOPIX)が来期3%減益となり、PERが現状のままだとすると、18936円が日経平均株価のめどになります。もちろん、日経平均株価は2018年3月を待ちません。このような予想が出てくれば、それをすぐに株価の織り込む動きになるでしょう。

自分で相場の見通しを作る

自分で相場の見通しを作る

この表は、シンプルなものですが、二つの観点から有用です。

相場の行き先を知る

新聞等で来期は何パーセント増益といった記事を見たときに、日経平均株価はどの程度動くかが分かる。たとえば、3%増益となる一方、PERが変わらないとすれば、日経平均株価は20107円が妥当な水準ということになる。これにより、相場全体が今後どの水準に向かうかを知ることができる。

将来の経済状況を推測できる

将来の株価水準をから、その時に経済状況を推測することができる。たとえば、日経平均株価が23000円になるということはどういうことか。表を見れば、12%増益となり、しかも、PERがいまよりも高い18倍まで上がることが必要ということ。これは、現状から見ると、かなり厳しい条件だ。したがって、軽々しく23000円まですぐに株価が上昇するとは考えるべきではないことが分かる。一方、仮に12%増益となる経済環境を考えると、典型的な例は120円を超えるような円安局面だろう。その可能性は高いか低いか。このような考えをめぐらすことで、日経平均株価のこれからのおおよそのレンジを想定することができる。

したがって、この表は、相場全体や経済状況の先行きについて思考するための道具となります。投資関連雑誌などで、プロの相場見通しといった特集がありますが、この表を使えば、ご自分自身で同じようなことはできるはずです。新聞等で利益予想がでれば、それを使うことで、大まかな先行き見通しを作ることができます。

益回りを考える

益回りを考える

ただし、このままでは一つの疑問が残ります。利益予想は、新聞等やアナリストのレポートで知ることができますが、もう一つの要素であるPERを何倍と考えたらよいのか? これは、結局は「PERはどのように決まるのか?」という大きな問題です。

ここで、視点を変えて、「益回り」という概念を検討してみます。益回りは、ある株式に投資をしたら、年間どれだけのリターン(収益)を得られるかを示すものです。債券投資や預貯金では、利回りでリターンを表しますが、この発想を株式に持ち込んだのが益回りです。株主が得られるリターンは当期利益ですから、益回りは次の式で求められます。

益回り=(EPS(一株当たり当期利益))/株価

この益回りは、実はPERの逆数になっています。
PER=株価/EPS → PERの逆数=1/PER=EPS/株価=益回り(%)
したがって、PERが分かれば、その株の益回りがすぐに計算できます。たとえば、日立製作所(証券コード6501)の3月17日時点の予想PERは15.09倍(四季報オンラインより)でしたから、その益回りは、
日立の益回り=1/PER=1/15.09=6.63%

また、TOPIXの益回りも計算できます。3月17日のTOPIXのPERは17.06倍でしたから、その逆数を取って、
TOPIXの益回り=1/17.06=5.86%
 
同じ日の15年満期の国債利回りは0.32%です。したがって、株式(TOPIX)は、国債よりも5.5%も利回り(益回り)が高いことになります。

この差は何か?直観的には、この差は、「リスクプレミアム」が関連しているはずです。国債は満期になれば、額面の100%で償還されます。すなわち、投資元本が戻ってきます。しかし、株式投資では、元本が戻ってくる保証はありません。このリスクを考えると、株式の益回りは、国債の利回りよりも高くなるのは当然です。このように株主は、債券投資や預貯金よりもリスクを多く負う見返りに、より高いリターンを得ることができるのですが、その高いリターンが「リスクプレミアム」です。

益回りはリスクプレミアムを反映

益回りはリスクプレミアムを反映

そこで、このリスクプレミアムが益回りに反映されているということは、その逆数であるPERにもリスクプレミアムが反映されていることになります。

(図3)PERと益回り

次の表(図3)を見てください。PERが5倍ならば、益回りは20.0%(=1÷5×100)です。PERが20倍ならば、5.0%となります。60倍まで拡大すると、益回りは1.7%まで低下します。PERが高くなるにつれて、益回りが低下するということです。

先述の通り、益回りにはリスクプレミアムが反映されているとすれば、PERが5倍の銘柄より、PERが20倍の銘柄の方が、リスクプレミアムが低いということになります。それは、PERが5倍の銘柄よりも、PERが20倍の銘柄の方が、リスクが小さいと見ることもできます。債券でも、安全性が高い債券(AAA債)は、リスクが高い債券(BB+以下のジャンク債など)よりも利回りが低くなっています。

もちろん、PERが高い株式のリスクが、本当に小さいとは言い切れません。ただ、PERが30倍ということは、その水準まで株価が上昇しているということ。それは、少なくとも投資家は、PERが10倍の株式に比べてリスクが低いと判断しているということです。

たしかに、経験則では、株式相場の先行き見通しが良くなれば、PERは上昇する傾向があります。投資家が、将来において株価が上昇するという確信を強めれば、リスクプレミアムが低下します。これは益回りの低下と、同時にPERの上昇をもたらします。

もちろん、PERは株価次第ですから、投資家の過度な期待で株価が大きく上昇したり、投資家の悲観で株式が売られ過ぎたりすることの影響は免れません。この観点からは、PERは株価のリスクを客観的に図るものとは言えません。あくまでも、PERは、投資家の主観的なリスクとリスクプレミアムが反映されたものです。

そのことに留意しながらも、相場の実践においては、相場の先行きが明るくなれば、予想PERが上昇するとみておきましょう。したがって、EPS×PERで得られる株価の目標は、以前よりも上昇することになります。

逆に、下落基調が強い相場になると、EPSの減少分を超えて株価が下がる可能性があります。それは、先行き見通しの悪化により、投資家はリスクプレミアムを以前よりもたくさん欲しがり始めることを反映しています。言い換えれば、益回りが上昇するということであり、すなわちPERが低下するということです。

たとえば、「予想EPSの減少が大きくなくないから、株価が大きく下がったのは市場が間違っている」と解釈するのは禁物です。市場は、相場の先行き見通しの悪化により、リスクに敏感になり、リスクプレミアムの拡大を図るために、PERの低下を促した結果であるからです。

逆に、相場が落ち着けば、予想EPSが変化しなくても、リスクプレミアムが低下し、益回りは低下。すなわち、PERの上昇が、株価の上昇をもたらすことになります。

相場の徒然 「安く買って高く売る」

「安く買って高く売る」が、ビジネスの鉄則であることは、どなたも疑いを持たないでしょう。株式投資も利益を上げることが目的ですから、その例外ではありません。しかし、実際の株式の売買において、「安く買って高く売る」ことは簡単ではありません。

多くの人は、株価が高くなったら買いたくなります。逆に、株価が安くなれば、買うことに躊躇し、さらに持っている株式を売ってしまうことさえあるでしょう。これは投資家が誤った判断を行っているというわけではなく、リスクを避けたいという人間の本能が背景にあるためです。そのことは、新しい経済学や心理学で明らかになっています。

とはいえ、そのような自然体で投資に臨んでしまっては、しっかりとした利益を得ることはできません。詳しいことは、また新たなコラムでご説明しますが、常に意識していただきたいのは「安く買って高く売る」ということ。

ですので、株価が下がってきたときに考えることは、「買いの機会が訪れたかもしれない」ということです。投資から遠ざかるときではありません。

どこで買えば良いかという取引の方法論は別途考える必要がありますが、株価が下がったら、買いのチャンスが巡ってきたと意識しましょう。ニュースなどが不安をかきたてる時こそ買いのタイミングと意識することは、投資におけるもっとも大事な心構えです。

むさし証券チーフストラテジスト、北海道大学新渡戸カレッジ・フェロー。北海道大学を卒業後、山種証券(現SMBCフレンド証券)に入社。エクイティ・デリバティブ取引のディーラーとなり、その後、世界最大の穀物商社カーギルでの日本株運用部長、みずほ証券エクイティ部のトレーディング担当部長などを歴任。一時、ベンチャー企業の立ち上げに参画し、上場を果たした。さらに、アジア中心に海外勤務を経て現職。北大でもグローバル人材の育成を行っている。法政大学経済学修士、日本証券アナリスト協会検定会員、日本テクニカルアナリスト協会正会員。著書に、「デイトレード入門」「株式先物入門」「FX入門」「初めての海外個人投資」(いずれも日本経済新聞出版社刊の日経文庫)など。
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