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新株の発行無効(前編)

新株の発行無効(前編)

さて今月は、発行手続きに問題があったにもかかわらず発行された新株発行の効力について、判例法理を見ていきたいと思います。

平成6年最高裁判決・事案の概要

平成6年最高裁判決・事案の概要

会社Yは、創業以来Xのワンマン会社であり、Xが発行済み株式の過半数を保有、代表取締役に就任していました。Yの取締役であったAは、Xが健康を害した後、Yの業務全般を取り仕切っていましたが、営業成績の不振などによりXと不仲になり信頼を失いました。

そのため、Aは、Xにより解任されることを恐れるようになり、AはXによる解任などを阻止する目的で、XからYの支配権を奪い取り、AおよびA側の者がYの発行済み株式の過半数を持つことを企図しました。

そしてAは、(ア)取締役会を開催して自らが代表取締役に選任される旨の決議を経てYの代表取締役に就任し、(イ)入院中だったXに対して招集通知をしないで取締役会を開催し、新株発行の決議を行った上でXに秘密にしたまま新株を発行しました。なお、Aはその本件新株の全部を引き受け、払込金額全額を払い込んだ結果、AおよびA側の者の持株が過半数となりました。

Xは、(1)上記の取締役会は代表取締役であるXに対して招集通知が送付されず、Xは出席していないため不適法であり、このような問題のある取締役会決議に基づく新株発行は無効である、(2)本件新株発行は、Aがこれをすべて引き受け、持株比率を高めてYを自ら支配しようとする目的の下にしたものであり、「著しく不公正な方法」によりなされたものであるから無効である、と主張して、本件新株発行の無効を求めました。

裁判所の判断

裁判所の判断

いかがでしょうか。会社を支配したい、Xから会社支配権を奪いたいという気持ちは理解できますが、新株発行に必要な手続をAは実行していません。このような問題のある手続きによる新株発行が認められて支配権を奪われてしまうとなると、Xにとってはとんでもない話ですね。

一審地裁、二審高裁も、本件新株発行が、著しく不公正な方法によりなされたものであること、新株がすべてAによって引き受けられ保有されていること、Yが小規模閉鎖会社であることを併せ考えると、本件新株発行を無効としても株式取引の安全を害しないとして、本件新株発行を無効と判断しました。

ところが、最高裁は、下級審の判断を覆し、本件新株発行を有効であると判断、Xの請求を棄却しました。

手続きに問題のある新株発行の効力

手続きに問題のある新株発行の効力

そもそも、新株発行の無効事由を会社法は定めておらず、解釈に委ねられています。

有効な取締役会決議に基づかないで株式会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した場合の効力については、学説上争いがあります。

①組織法上の行為に関する手続違反である点を重視して無効と考える無効説、②新株発行が業務執行に準じる行為であり、それにより発生する法律関係の安定を図る必要があることを重視する有効説、さらには、③原則的には有効説に立ちながら、当初の引受人の手元に発行された新株がとどまっている場合など、法律関係の安定を図る必要がない場合には無効とする中間的な見解(折衷説)の間で激しい論争が繰り広げられています。

本件の一審、二審は、この折衷説に立ってXの請求を認容しました。折衷説は、「法律関係の安定」を図るために原則有効としながら、法律関係の安定を図る必要のない場合には無効とできるため、本件のように、会社支配権奪取のためになりふり構わないケースにおいて、新株発行を無効とできる可能性が広がる点で非常に魅力的です。

しかし、最高裁は、本件において、①有効な取締役会決議に基づかないで発行された新株発行は有効である、②著しく不公正な方法により発行された場合でもその新株発行は有効であるとして、Xの請求を棄却しました。

後編では、このような最高裁の考え方の背景や、本判決の射程に関する近時の考え方について概観したいと思います。

八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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