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「ミタニの譲手の法則」

「ミタニの譲手の法則」

前回の北浜M&A通信では、「実践M&A」教室のゲストにお招きしたFさんが、自らが興した会社をより成長させるために上場企業商社X社に一族の株式を売却する決断をし、それを私がお手伝いさせていただいたという、M&A取引の一連の流れを振り返らせていただきました。

私がこれまでに伺った「会社を譲り渡したい」というご相談は五百件以上になりますでしょうか。結果として、Fさんのように、自らが思い描いたほぼ理想の相手とめぐり合えた方もいれば、なかなか相手にめぐり合えない方もいらっしゃいます。残念ながら「この相手だ!」と思って進めたけれども後で悔やむようなケースもあります。

ご相談される方のほとんどは、「良い相手を探してください」とおっしゃいます。多くのアドバイザーも「良い相手をご紹介します」と言います。では、「良い相手」とはどういう相手でしょうか?

私の経験から定義づけますと、「高く評価をしてくれて、またその評価以上の株価をつけてくれる」(価格)、「経営トップとその方針に共感できるうえに、知名度も高く経営に安定性があり、従業員を安心して委ねることができる」(品格)、「やり取りが円滑に進み、迅速に話がまとまる」(スピード感)の三要素を備えた相手となります。三つの要素が全て最大値となれば言うことはないのですが、これがなかなか難しいのです。

ミタニの譲手の法則:図面

Fさんのケースで振り返ってみましょう。アドバイスを開始してすぐに「実は、急成長している同業者α社から『貴社を○億円で買収したい』と一方的にFAXが会社に送りつけられている」と打ち明けられました。その金額は私が算定した評価額を大きく上回っていましたが、私から申し上げるまでもなく、「そういった進め方をする企業は信用できないし、社風もよくない、仕入先を失うリスクも高い」と言うことで、金額の多寡だけで判断しない、ということが逆にFさんの中で明確になっていました。

そして、Fさんの強い希望もあり、最大の経営課題である資金力・信用力を補完してもらえる相手として、まずは同業の子会社を有する総合商社から打診することになります。打診した2社とも、「大いに関心有り」ということでミーティングを重ね登場人物が増えていくのですが、結局「経営企画、統轄事業部、子会社の意向調整に手間取り時間がかかる」といったことで話が進まぬまま4カ月以上経過してしまいます。

そういった経緯の後に、「総合商社に拘らなくてもよいのではないですか」と私がご紹介したX社は、二回目のミーティングで経営トップ自らが「当社が今後の注力分野として伸ばしていくために、今のままの形でF社の力を貸してほしい」と熱く語りかけられました。そこからは前回お話したような流れでトントン拍子に話は進んだというわけです。

このように、譲り渡す方は「価格」「品格」「スピード感」の三要素の中での優先順位や基準を決め、候補が現れた場合にはそれにてらして判断することが重要です。譲れないところは譲らないが、妥協すべきところは妥協する、ということですね。

蛇足ながらFさんが教室で話された後日談を紹介します。「X社との契約直前に、偶然と思われるがα社の幹部が自宅に夜討ちしてきて『今どこかから提示されている金額があるならその2倍で買い受けたい』と迫られたが、勿論、一切耳を貸さなかった」と。このドラマのような話は当時から聞いていましたが、Fさんから「今だから言いますが、正直、心が揺れました。三谷さんの顔が浮かんで、やっぱりやめとこかと思いましたが」とまさかのカミングアウト。

次回は、「価格」について考えていきます。

1990年3月大阪大学法学部卒業、同年4月日本興業銀行(現みずほ銀行入行)、同行退職後、銀行系証券、独立系M&A仲介会社、上場企業広報・IR・M&A部門責任者を経て、2016年1月ジャパンM&Aアドバイザー代表取締役社長に就任。同志社大学大学院ビジネス研究科講師を現任。
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